表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
577/651

子供の世界 1


評価&ブクマ、ありがとうございます


目立ちたくないけど、難しい。







 子供らしい子供を演じるとわたしは決めた。

 前世の記憶があることは誰にも言えない。話しても信じてもらえるとは思えなかったし、親に気味の悪い子だと思われたくなかった。

 わたしはこの世界の両親のことをかなり気に入っている。

 母が美人なのは楽しいし、イケメンに甘やかされるのは悪い気分ではなかった。

 2人とも、娘を溺愛してくれる。

 わたしの感覚的には2人はだいぶ年下だが、親になろうと頑張っている姿は微笑ましかった。

 親というのは子供が生まれれば自然になるわけではない。努力してなるものなのだと、2人を見ていると思った。

 そんな親との良好な関係を壊したくない。


 だから何でも人並みに、ごくごく普通を目指した。目立たず、その他大勢であろうとする。

 だが、それはあまり上手くいかなかった。出来ることを出来ないふりをするのは案外、難しい。


 言葉を話せたのも、トイレに一人で行けるようになったのも、数を数えられるようになったのも、普通の子供より早かった。


 わたしの普通の子供になる計画は早々に頓挫する。


(だって、トイレトレーニングとかわざと失敗するなんて無理でしょ)


 大人としての羞恥心が、おもらしを許せなかった。一回も失敗せず出来てしまうのは不自然だと思ったが、出来るんだから仕方ないと開き直る。

 そしてその頃から、普通に拘るのは止めた。そもそもの“普通”がわからないのだから、合わせようがない。

 わたしの側には普通の基準になるモデルがいなかった。

 おかげでわたしは何でも人より早く出来る優秀な子供になってしまう。


 そんな娘を両親は気味が悪いと忌避することはなかった。むしろ期待する。

 両親にとって、わたしは唯一の子供だ。

 両親は仲睦まじいのに、次の子がなかなか出来ない。跡継ぎの男の子をみんなが望んでいるが、現状では厳しい感じだ。このままだとわたしが父の跡を継いで領主になることになる。

 そんなわたしが優秀だと、両親はいろいろと助かるようだ。

 そのことに気づいた時、わたしは優秀な時期当主を目指すことにする。


 3歳にして、わたしは読み書きを覚えた。学習意欲があるのだから、覚えるのは早い。子供の脳は吸収が良かった。覚えるのも難しくない。普通の子供よりずっと早い年齢なのはわかっていたが、優秀な子供を目指しているので手は抜かなかった。

 本を読めるようになると、父の書斎にある本を片っ端から読んでいく。

 わたしはなんでも知りたかった。

 何で? 何で? とみんなに質問する。周りはけっこう困っていた。だが、両親は嫌な顔をせず質問に答えてくれる。


 おかげで、5歳の頃にはこの世界のことはだいたい理解していた。


 自分がいるのはアルス王国という大きな国の国境に近い辺境地だ。ランスロー家は男爵らしい。


(貴族は貴族でも男爵家なのね)


 爵位的には一番下なので気楽だと思った。しかも辺境地の男爵家なので、王宮とかには縁がない。言ってしまえば、家はただの田舎貴族だ。


(つまり、貴族は貴族でもお気楽な方の貴族ってことね)


 そんな風に考える。謀略に巻き込まれたりする心配は必要ないようだ。

 領民の多くは農民なので、領内の雰囲気は朴訥としている。


(そこそこ豊かで、のんびり出来て。田舎ってサイコーじゃない?)


 流行のドレスも宝飾も、前世の時からたいして興味がないわたしには都会に対する憧れがない。むしろ、田舎は食材が新鮮で食べ物が美味しいので、いいことだらけだ。


(ランスローに骨を埋めよう)


 齢5歳にして、わたしは決意する。いい領主になり、家族も民も纏めて守ると誓った。


 ランスロー領は温暖な気候で、穀倉地帯として国を支えている。領地の多くは農耕地で、領民達は特別豊かではないけれど、食うは困らない生活を送っていた。

 父はいい領主らしい。領民を大切にしていた。しかしその分、家計的にはそんなに余裕があるわけではない。多少の贅沢なら問題はないが、散財できるほど資産があるわけではないようだ。


(わたしの本代とか、けっこう負担なんじゃないかな?)


 父の書斎の本を読み終えたわたしは、新しい本を強請っていた。だが、家計の状況を知って、心配になる。本の値段は知らないが、そんなに安くはないだろう。

 わたしはおねだりを止めた。両親に無理をさせるつもりはない。

 ちなみに母のドレスが上等だったり宝飾品が凄かったりするのは、実家がお金持ちだったからのようだ。しかしその実家とはすでに縁は切れている。母方の親族に、わたしは誰一人会ったことがなにかった。

 母は実家の話は一切しない。詳しいことはわからないが、聞かれたくない話だということは理解した。一度言葉を濁されてから、わたしは母に実家のことを聞くのは止める。


 そんな空気が読めて理解の早いわたしは、いつからか神童として有名になっていた。

 中身は大人なんだから、子供より何でも出来るのは当然だろう。だが、何も知らない大人から見たら、わたしは何でも出来るちょっと大人びた子供だ。


(まさか、自分が神童と呼ばれる日が来るなんて……)


 いろんな意味で感慨深い。


(20歳過ぎればただの人って言うけど、その通りだな)


 わたしのアドバンテージなんて、大人になれば終わるだろう。鍍金がはがれる日はそう遠くなかった。短い期間なら神童と呼ばれてもいいかと、周りの評価を気にしないで放っておく。

 だが、それがよくなかった。ちょっと面倒なことになる。

 親が出席するホームパーティに連れて行かれたら、同じくらいの年の子供に囲まれた。


「おまえが神童か?」


 ものすごく、上から問われる。


「……」


 ムッとしたので、わたしは答えなかった。






子供には子供の世界があります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ