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転生

評価&ブクマ、ありがとうございます。

過去編、スタートです。







 幸せな人生だった。


 別に人より多くのものを得たわけではない。結婚もせず、家族も作らなかった。だが、好きなことをして生きた。

 わたしはわたしなりに、自分の人生を幸せだったと思う。満足して、わたしは人生の幕を下ろした。――はずだった。


「おぎゃあ、おぎゃあ」


 泣き叫ぶ自分の声に、自分でびっくりする。死んだはずなのに、目が覚めた。

 あまりにびっくりしたので、泣き止んでしまった。


(どういうこと?!)


 基本的に冷静なつもりだが、さすがに動揺する。何故なら、わたしの目に入る光景は一度も見た覚えのないものばかりだ。

 ここは病院ではない。もっと言えば、たぶん日本でもないだろう。

 全体的に、部屋の内装はヨーロッパ調だ。それも近代というより中世っていう感じがする。

  プチパニックに陥りながら、それでもわたしは必死に頭を回転させた。一周廻って、冷静になってくる。まず、部屋の中をじっくりと見回すことにした。

 室内は温かだ。それは暖炉があるかららしい。薪が赤々と燃えているのが目に入った。

 部屋はさして広くはない。だが、狭くもなかった。

 天井を見上げても照明器具はなく、その代わりにテーブルの上にランプが置いてある。明かりはランプで取るようだ。

 部屋の調度品は華美ではないが、そこそこいいものを使っている。それなりにお金を持っているか、地位が高い人間の家だろう。


 ここでわたしは仮説を三つ立てる。

 一つは、ここが電気も来ないようなものすごい僻地である可能性。山奥とか、孤島とか。電気を引けない場所はないわけではない。

 二つ目は、ここの住人が超・アウトドア好きだということ。あえて、電気のない不便な生活を好んでいるのかもしれない。

 そして三つ目は、みんな大好き。異世界の定番、中世ヨーロッパ風。


 生まれ変わったとして、時代を遡って過去に生まれ変わるとは考えにくい。そうなると、可能性があるのはこの3つくらいだ。


(転生があるなら、異世界転生もあって然るべきよね)


 わたしは納得する。だが、腑に落ちないこともあった。


(わたしはトラックに轢かれていないし、通り魔に刺されたわけでもない。突然、命を断たれたわけではなく、普通に天寿を全うした感じだったのに……。それでも、異世界に転生ってするんですか?)


 わたしは心の中で問いかける。

 異世界転生には天の声が付きものだろう。応えてくれるかも知れないと期待した。

 だが、返ってきたのは静寂だった。応える声はない。


(チッ)


 心の中で舌打ちした。

 そういえば、女神様的なものにも会った覚えもない。

 死ぬんだなと思って病院で目を閉じたら、次にいたのがここだ。

 説明は何もない。


(じゃあ、ステータス画面的なものは?)


 最近の流行(?)で、自分のステータスが見られるものが異世界転生には多い。何か現れないかと、一生懸命手を動かした。


「うっ、うっ」


 声を漏らしながら頑張ったが、何も出てこない。

 というより、動かせる手がとても短くて小さかった。


(完全に赤ちゃんだな)


 自覚する。

 最初のおぎゃあおぎゃあで予想はついていたが、どうやら生まれ変わったわたしはまだ赤ちゃんのようだ。前世の記憶を持ったまま、生まれてきたということらしい。


「……」


 わたしは何とも複雑な気持ちになった。


(また一から人生を始めるのか)


 ちょっと憂鬱になる。

 それなりに幸せに人生を終えたつもりのわたしにはやり残したこともやり直したいことも特にはない。

 山も谷も特になく、平々凡々と物語ならその他大勢に分類されるモブ人生を歩んできたわたしは自分の人生に結構満足していた。


(生まれ変わってもな~)


 正直、そう思う。面倒だという気持ちの方が強かった。

 そんな時、ドアが開く音が聞こえる。


「~~、マリアンヌ。~~」


 聞いた事がない言語が耳に入ってきた。名前らしき部分しか、聞き取れない。マリアンヌというのが自分の名前だろうと、推察した。


(異世界転生に、言語翻訳機能の装備って必須じゃないの?)


 全く理解出来ない言葉に、わたしは動揺する。困ったなと思った。

 赤ん坊のわたしに声をかけけながら(←たぶん)、ドレスを着た女性が近づいてきた。まだ若い上に、目がさめるような美人だ。何かを必死に語りかけてくるが、わたしには全く伝わらない。

 だが、彼女は全く気にしなかった。わたしを抱き上げて、豊満なその胸に抱える。わたしの頭にチュッとキスをした。それはそれは愛しそうに、見つめられる。


(この人がお母さん)


 わたしは確信した。まだ若いのに、もう子持ちなのかと思う。

 同時に、ちょっとした期待が湧いた。


(この人の娘なら、わたし、ものすごい美人だったりしない?)


 思わず、胸が高鳴る。だが数日後、その期待はあっさりと裏切られた。









残念ながら、ママ似ではない。


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