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遠き未来


評価&ブクマ、ありがとうございます。

さくっと2年経っています。






 一週間後のアドリアンの結婚式の準備にマリアンヌは追われていた。当事者であるアドリアンやオフィーリアより忙しそうにしている。

 オフィーリアがアルス王国にやって来て1年近く経った。離宮で一緒に暮らすオフィーリアはすでに家族同然になっている。さばさばした性格のオフィーリアは他の子供達とも上手くやっていた。特に姉が出来てことを喜んでいるメリーアンとはよく2人でお出かけしている。アドリアンよりメリーアンとの方が仲がいいくらいだ。


「本来、こういうのは文官とか側仕えが指示し、侍女がする仕事てす。マリアンヌ様がする必要はないのですよ」


 なんでも自分でしようとするマリアンヌにメアリが苦言を呈する。


「わかっています。でも、何もしないのは落ち着かないの」


 自分の時以上に、マリアンヌはそわそわしていた。自分の結婚式は悪阻との闘いだった。それ以外のことは実はよく覚えていない。


(こんなことやったかしら?)


 そう思うことが度々、あった。


「でしたら、ラインハルト様の即位の方の準備を手伝われたらいかがでしょう?」


 メアリは勧める。

 尤もな意見に、マリアンヌは黙るしかなかった。


 アドリアンの結婚式の一月後、現国王の退位とラインハルトの即位が同時に行われる。そのことはすでに発表済みだ。

 国民は二ヶ月連続の祝い事に、祝賀ムードに包まれている。

 一方王宮は、立て続けの祭事にバタバタしていた。


 ラインハルトが国王になるということはマリアンヌが王妃になるということでもある。ラインハルトの妻は一人だけなので、王妃の仕事は全てマリアンヌに引き継がれることになっていた。その現実から、マリアンヌは少し逃避している。避けられないことなのはわかっているが、今はまだその事実を直視したくなかった。


「そちらはまだ先の話なので、いいのです」


 断った。

 マリアンヌが逃げていることにメアリは気づいている。だが、無理強いするつもりはなかった。そんなことをしなくても、時期が来ればマリアンヌは自分の役目と向き合うだろう。やるべきことを捨てて逃げることが出来るような人ではない。責任感が強かった。


「わかりました。即位に関する諸々は結婚式が終わってからでも間に合いますので、今は結婚式に集中してください」


 メアリは折れる。

 その言い方にマリアンヌは苦笑した。


「メアリって、わたしには厳しいわよね」


 ぼやく。


「あら。優しくされたいですか?」


 メアリは真顔で尋ねた。


「……」


 マリアンヌは少し考える。


「それはそれで不気味なので、このままでいいわ」


 小さく笑った。






 一週間後、アドリアンの結婚式は恙無く行われた。

 それをマリアンヌは感慨深い気持ちで眺める。自分が母として息子の結婚式を見ることになるなんて、前世では考えられなかった。

 何とも不思議な気持ちになる。


(泣きそう)


 当時者の2人が淡々と式を行っているのに、見ているマリアンヌの方が涙ぐむ。

 それに気づいたラインハルトがマリアンヌの手を握った。


「ありがとう」


 小声で、礼を言う。

 ラインハルトもまた、家族を持ち、息子の結婚式を見る日が来るなんて思わなかった。

 マリアンヌと出会うまで、ラインハルトは本気で独身を貫くつもりでいた。

 国や民を思わなかったわけではない。だが2人の兄は十分に優秀で、どちらが国王になっても問題はなかった。国は繁栄しただろう。その手助けはいくらでもするつもりでいた。

 幼い頃に母を亡くしたラインハルトには、家族というものがよくわからない。父は溺愛してくれたが、普通の親子の関係ではなかった。

 そんな自分が結婚し、子供を作るなんて想像できない。妻や子供を愛する自信なんてなかった。愛されなかった者の悲しみは身近にいくらでも例があるので知っている。

 父は国王としては優れていたが、父や夫としてはどこかが欠けていた。

 自分にはその父の血が色濃く流れている。妻や子を不幸にするのがわかっていながら、家庭を持つことは考えられなかった。

 だが、マリアンヌに出会ってしまう。

 普通の貴族とはあまりに違うその行動に、最初は呆れた。だがそれはいつも他者のためで、自分のことは二の次にする。だが本人にその自覚はなかった。

 そんなマリアンヌと共に居たいと、ラインハルトは願ってしまう。自分とマリアンヌの間に生まれた子を愛しく思えた。ラインハルトの一番は妻であるマリアンヌだが、子供達のことも愛している。

 気づいたら、子供達の数は増えて大家族になっていた。

 離宮はいつも賑やかで、温かな空気に包まれている。

 これが家族というものなのかと、ラインハルトは初めて知った。

 それを与えてくれたのは、マリアンヌだ。感謝してもしきれない。


「ここでそれを言うのは反則です」


 マリアンヌはポロリと涙をこぼした。そっと指で涙を拭う。


「じゃあ、2人きりの時に改めて」


 ラインハルトは笑った。その時は涙を自分が舐め取ろうと決める。


「2人の時もダメです」


 マリアンヌは首を横に振った。


「そういうのは、最後の時までとって置いてください」


 嫌がる。


「そうか。ではずっと先の話になるな」


 ラインハルトは遠くを見た。


「ええ。ずっと先の話です」


 マリアンヌは頷く。


「その時まで、一緒にいましょうね」


 そっと囁いた。







外伝、完結です。

でも、マリアンヌが転生したばかりの頃の話を過去編として始めようかなとか考えています。

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― 新着の感想 ―
[一言] えっ、お終いなんですか!寂しい。あっさり終わってしまった印象です。 私がマリアンヌの話を最初からずーっと読んでいるから、そう感じるのかも。でもやっぱり寂しいです。
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