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覚悟


知らないというのは怖いことなのです。

ブクマ&評価、ありがとうございます。





 中央都市国家・セントラル。

 その国の正式名称はそういう名前だ。都市国家というくらいだから小さいらしい。バチカン市国とかモナコとかたぶんそんな感じなのだろうとマリアンヌは思う。そのどちらにも行ったことなんてないけれど。

 その国は小さいのに、どの国より力を持っていた。他の国の国王は基本的にセントラルの意向には逆らえない。

 だが、どこからもそれに対する不満は出なかった。何故なら、セントラルは基本的に他国に介入しない。いわば空気みたいな存在だ。無いと困るのに、目に見えていない。それなのに、どこにでもある。

 そんなセントラルからの呼び出しは、当然、大問題だ。


(困った。呼び出しを受ける心辺りが全くない)


 マリアンヌは離宮に戻ってからずっと、難しい顔をしていた。考えても何をやらかしたのかわからない。

 そもそも、やらかしたから呼び出されたとも限らなかった。 むしろ、呼び出しということに疑問を持つべきかも知れない。通常、セントラルが他者を国内に招き入れることはない。そういう意味では完全に国を閉ざしていた。


(考えれば考えるほど、訳がわからない)


 マリアンヌはううーんと唸った。

 そんなマリアンヌをアントンは心配そうに見ている。メアリは荷物の片付けに追われて忙しそうに働いていた。主人を心配する余裕はまだない。


「何か大変なことが起こったのですか?」


 差し出がましいと思いながら、アントンは聞かずにはいられなかった。


「えー。あー、うん」


 返答に困って、マリアンヌはとりあえず頷く。


「大変なことは大変なことなんだけど。いまいち、何が起こっているのかはわたしにもわからないのよね」


 マリアンヌは正直に話した。


「……」


 アントンは不安な顔をする。


「マリアンヌ様が理解出来ないことというのは、相当厄介ですね」


 独り言のように呟いた。


「あら」


 マリアンヌは笑う。


「案外、アントンの中でのわたしの評価って高いのね」


 楽しげにそんなことを言った。


「高いですよ」


 アントンは素直に頷く。


「突飛な行動や斜め上をゆく考え方はともかく、マリアンヌ様は頭がいい方だと思っています」


 真顔で答えた。

 からかうつもりで笑ったマリアンヌは、真摯な反応に逆に戸惑う。


「それは……。ありがとう」


 困った挙句、とりあえず礼を言った。


「わたしなんてその他大勢でたいした人間じゃないのに、意外にみんな評価してくれるから不思議よね」


 独り言のように呟く。


「皇太子妃をその他大勢の枠に入れる人は普通いないと思いますよ」


 アントンは苦笑した。


「それはだって、たまたまだし」


 マリアンヌは肩を竦める。

 辺境地の男爵令嬢が王族に嫁ぐなんて、普通ではありえない。お妃様レースなんてものがたまたま開催されたからだ。そうでもなければ、重臣達の反対でいいとこ愛妾止まりだろう。もちろん、マリアンヌは愛人なんて立場になるつもりはさらさらない。


「わたしの夢はランスローの片隅でのんびりゆっくり暮らすことだったのに、何で今、王宮になんているのかしらね?」


 真顔でアントンに聞いた。


「その言葉、旦那様には言わないであげてください。泣かれますよ」


 アントンは困った子供を見るような目をする。


「わかっているわ。さすがにそれくらいの空気は読むわよ」


 マリアンヌは小さく笑った。

 穏やかで優しい空気が部屋に満ちる。


「はあ……」


 マリアンヌは大きく息を吐いた。


「考えても無駄なことは考えないことにするわ」


 覚悟を決める。マリアンヌはわりと思い切りがいいタイプだ。開き直るのが早い。


「マリアンヌ様?」


 アントンは訝しんだ。


「考えたって、悩んだって。世の中、なるようにしかならないこともあるのよね」


 マリアンヌは妙にすっりした顔でそう言う。


「悩むのは、詳細がわかってからにします」


 アントンはよくわからない宣言を聞かされた。





マリアンヌはなるようになれと思っていますが、そう思い切れない人ももちろんいます。


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