施政者の孤独
ウリエルは飄々としています。
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にやにや嗤っているウリエルにマリアンヌは軽くイラッとした。
(性格ってそうそう変わらないのね)
三つ子の魂百までも、という言葉を思い出す。国王になってもウリエルは変わっていない。どこかふざけたところがあった。同じ王子様でもラインハルトとはけっこう違う。ラインハルトは意外と真面目だ。ルイスがしっかり手綱を握っているからかもしれないけれど、基本的に真っ直ぐな人だ。
ちなみにそのルイスはメアリと共に少し離れたところで控えている。ラインハルトにはルイスが、マリアンヌにはメアリが付き添っていた。
「ウリエル様はお変わりないですね」
若干の嫌味を込めてそういうと、にこやかなまま視線がマリアンヌのところに来た。
「そうですね。良くも悪くも変わっていません」
そんな応えが返ってくる。
それはどの話なのか、マリアンヌは少し考えてしまった。
あの後、アルステリアで大きな変化があったとは聞いていない。議会と国王の覇権争いはそこそこ均衡を保っているようだ。もちろん、その話にマリアンヌを含めてアルス王国はノータッチだ。他国のいざこざに首を挟むほど愚かではない。
「変わらず平穏無事なら、それでいいんじゃないですか?」
マリアンヌはにこりと笑った。
「他人事ですね」
ウリエルは苦笑した。
(他人事ですもの)
正直すぎるその応えはもちろん、口にはしない。そのくらいの空気は日本人を止めた今でも読む。
ただ意味もなく微笑んでおいた。
「マリアンヌ様は食えない感じに磨きがかかっていますね」
ウリエルは笑う。
「食われても困るので」
にこやかに返したら、こほんと隣からラインハルトの咳払いが聞こえた。
(あっ……)
マリアンヌは苦く笑う。ちょっと調子に乗って軽口をたたきすぎたようだ。
(この程度の会話で拗ねられても困るんだけど)
心の中で愚痴る。
だが、悪い気はしなかった。愛されているのはよく知っている。
「お2人は本当に仲がいいんですね」
感心したようにウリエルは言った。
そういうウリエルはもちろん既婚者だ。マリアンヌが最初に会った時にはすでに子供がいた。貴族の結婚は基本的に早い。ウリエルが国王として即位する時、王妃になる彼女に挨拶をさせてもらったが、凛とした真面目で堅物な印象を受けた。ウリエルとはいろいろ違う。気が合いそうには見えなかった。2人はビジネスライクな関係なのかもしれない。だが貴族の結婚なんてたいていはそうなので珍しいことでもなかった。跡継ぎがちゃんと生まれているから問題ないのだろう。
「ええ。まあ」
マリアンヌは頷いた。元日本人としては謙遜したいところだが、そういうのはしない方がいいことはもう知っている。感覚的にこの世界は欧米だ。自己主張はちゃんとしないとだめだし、謙遜や謙虚は意味がない。
「羨ましいですね」
ウリエルのその言葉に、ラインハルトの機嫌は少し上向いた。
そこから先は当たり障りの無い世間話が続いた。お互いの国については一切、持ち出さない。
意外にもそのたわいも無い話は楽しかった。
考えてみれば、身分を気にせず誰かとこうして酒を飲むのはずいぶんと久しぶりになる。
誰といても、身分差が常に存在した。意識しないようにしても、意識せずにすむことではない。
偉いということは孤独だということだ。
心を許せる相手なんて、数えるほどしかいない。
「こういうの、楽しいですね」
ぼそりと、お開きになる頃にウリエルは呟いた。独り言のようにこぼす。
その言葉を拾うべきか流すべきか迷って、マリアンヌはそのままスルーした。
親しくしたいと思っても、互いの立場では難しい。顔を合わせる機会なんて、そうあるわけがなかった。
ガブリエルはウリエルが即位後に結婚しています。一応、自分が即位する可能性があったので、配偶者の選別には気を遣ったのです。




