それぞれの道
みんなそれぞれの道を選んでいます。
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ランスローで過ごす時間はまったりしていた。
夕方、マリアンヌは目を覚ます。後ろからラインハルトに抱きしめられていて、身動きしにくい状態だった。
ぐっすり寝たので疲れは取れているが、とっくにお茶の時間は過ぎているだろう。
時計を見て、時間を確認した。
疲れているのを気遣い、寝かせてくれたのだろうと察する。
「ラインハルト様」
がっつりと腰に回されている手をトントンとマリアンヌは叩いた。
「起きてください」
声をかける。
「ん……」
背後で身じろぐ気配を感じた。
マリアンヌはラインハルトの手を取って、自分の身体から外す。ゆっくりと身を起こした。
「もう夕方ですよ」
ラインハルトを見る。
ラインハルトは眠そうな顔をしていた。
(なんか可愛い)
マリアンヌはくすりと笑う。顔を寄せ、チュッと触れるだけのキスを頬に落とした。
「どうせなら、口がいい」
ラインハルトはそんなことを言う。
「ははは」
マリアンヌは笑って、聞き流した。ベッドを降りる。身なりを軽く整えた。
「みんなが待っているでしょうから、行きましょう」
ラインハルトを促す。
「……わかった」
ラインハルトはようやく身を起こした。マリアンヌと2人きりで過ごす時間が終わること残念な顔をする。
そんな夫をマリアンヌは苦く笑った。
夕食前、居間にはみんな集まっていた。
そこにはマルクスやアーク、リリルの姿もある。家族の食事に呼ばれたようだ。それは決して珍しいことではなく、週に何回か、みんなで集まって夕食を取るらしい。
みんなが仲良くしていることを知って、マリアンヌはほっとした。
ここにはアルフレットやルークもいるが、ユーリの姿だけがない。
ユーリは一人、王都に戻っていた。
大公家を継ぐのはルークではなく、ユーリに決まる。ルークはランスローに残ることを希望した。シエルの養子になるのはルークの予定だ。
「元気そうだね」
マルクスが穏やかな笑みを浮かべて弟を見る。
「兄さんこそ」
ラインハルトは微笑んだ。この2人はわりと仲がいい。
マルクスはリリルが成人するとさっさと家督を譲って引退した。王族としての公務を息子に継がせる。もっとも、生活は以前とはほぼ変わらなかった。好きな研究は続けているし、農作物を楽しそうに育てている。マリアンヌが夢見た自給自足の生活をほぼ実現していた。ただ、公務のために王都に戻ることがなくなる。ラインハルトと顔を合わせる機会はぐっと減った。今回は久々の再会になる。
アルフレットはマルクスの引退と共に、後を継いだリリルの補佐に就任した。引き続きランスローに滞在し、リリルを助けている。
リリルは成人後も王都に戻らず、ランスローで生活することを選んだ。王都を離れていてもこなせる公務だけ残して、それ以外のマルクスが担当していた公務はアドリアンやオーレリアン、エイドリアンなどが引き継ぐ。それはフェンディも同様で、一部の公務を除いてマリアンヌの息子達が仕事を引き継いでいた。
ルークがランスローに残ることを決めたのはリリルのためらしい。2人は親友で、とても仲が良い。そんな2人の気持ちを慮って、ユーリは自分が大公家を継ぐことにしたようだ。
成人する少し前からユーリは王都に戻っている。
小さかった子供達が成長し、自分の進路を自分で決めたことを知り、マリアンヌは感慨深い気持ちになった。
「みんないつの間にか、大人になっているのね」
独り言のように呟く。
「案外、姉さんが一番成長していないのかもね」
シエルがからかうように笑った。
「意地悪ね」
マリアンヌは拗ねる。だが、本気で怒ってはいなかった。兄弟でじゃれている。
それを少し面白くない顔でラインハルトは見ていた。
「大人気ない」
メリーアンはぼそっと呟く。
「その通りですが、それは言わないであげてください」
ルイスは頼んだ。
「ルイスは父様に甘すぎると思う」
メリーアンは怒るようにルイスを睨んだ。
なんだかんだいって、ラインハルトを甘やかしたのはルイスです。




