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 領主達と食事をしたりパーティに出たりしながら、ラインハルトの一行は順調に道中を進んだ。

 特に危険なこともなく、国が安定していて良かったなとマリアンヌはしみじみする。

 アルス王国は犯罪率が低い。基本的に農作物が豊富なので、飢える人がほぼいないからだ。犯罪に手を染めなくても、生きていける手段がある。特にこの20年、マリアンヌは精力的に貧困層の改善に取り組んできた。貧富の差が出るのはどうしようもない。格差とはどうやっても生まれるものだ。だが最下層の底上げなら出来る。働く意思のある人間は共済されるよう取り組んできた。同時に、怪我や病気で働けない人間にも手を差し伸べる。

 それは善意からだけの行動ではなかった。全ての人を救いたいなんていう高尚な考えは持っていない。革命が起こったら捕まって処刑される側の人間になってしまったので、万が一にもそんなことが起こらないように布石を打っているだけだ。

 自分や家族をギロチンで処刑させるつもりはさらさらない。


「ようやく、ランスローまで来たわね」


 マリアンヌは見慣れた故郷の景色を目にし、ほっと息を吐いた。肩の力を抜く。

 ここまでの道のりは長かった。


「疲れた顔をしているな。大丈夫か?」


 ラインハルトは妻の顔色を心配する。隣に座るマリアンヌの腰を出した。

 マリアンヌは素直にラインハルトに凭れる。


「少し……」


 苦く笑った。

 連日、滞在先の領主達に歓待されて、マリアンヌたちはパーティなどに引っ張り出されていた。マリアンヌはこれも仕事だと社交を頑張る。貴族達との親交を深めることに努めていた。

 それが疲れないわけがない。日程的にはかなり余裕なのに、いつもの倍くらい精神的には疲労していた。


「でも今日は何もなく休めるはずですから、大丈夫です」


 マリアンヌはにこりと笑う。実家では少しはのんびり出来るはずだ。


「昼過ぎには着くはずだから、午後はゆっくり休むといい」


 ラインハルトの言葉に、マリアンヌは静かに頷いた。






 実家でのんびりと休むはずのマリアンヌの隣にはラインハルトがいた。昼寝をしようとベッドに横になったら、一緒についてくる。


「……」


 マリアンヌは冷たい目をラインハルトに向けた。


「少し休みたいのですが……」


 控え目に主張する。


「ああ、休んでくれ」


 ラインハルトは頷いた。ベッドから出て行くつもりはさらさらない。


「一人で休みたいのですが……」


 マリアンヌはため息をついた。


「君の邪魔をするつもりはない。気にしなくていいよ」


 ラインハルトは平然と答える。


(そういう問題ではない)


 マリアンヌは心の中で突っ込んだ。


「昼間からしませんよ」


 その気はないと断る。


「わかっている。それは夜まで楽しみに取っておくよ」


 ラインハルトはにこやかに笑った。爽やかな笑顔が眩しい。


「夜はやる気なのね」


 マリアンヌはやれやれという顔をした。


「ああ。疲れた君を気遣って、ずっと何もしないで我慢していただろう?」


 誉めてくれと言いたげに、ラインハルトはマリアンヌを見る。


「それ、わりと普通じゃないですか?」


 マリアンヌは苦く笑った。


「愛する妻が隣にいるのに、一週間近くも何もしないという生殺し状態がか?」


 ラインハルトは反論する。


「結婚して20年も経てばそれが普通かと」


 マリアンヌは言い返した。


「私は毎日でもマリアンヌを愛したい」


 ラインハルトは真顔で宣言する。

 マリアンヌは困った。それを駄目だと断る正当な理由は特にない。


「とにかく、いまは寝たいので一人にしてください」


 マリアンヌは頼んだ。


「それは私も一緒に寝ては駄目なのか?」


 ラインハルトは寂しそうに聞く。しょんぼりと垂れ下がる耳とシッポが見える気がした。


(ずるい)


 マリアンヌは心の中で愚痴る。あんな顔されて、駄目とは言い難い。


「本当に何もしません?」


 ラインハルトに甘いと思いつつ、マリアンヌは確認した。


「約束しよう」


 ラインハルトは頷く。


「大人しく寝るなら、まあいいですよ」


 マリアンヌは折れた。後ろからラインハルトに抱きしめられながら、昼寝をする。首筋にラインハルトの息がかかり、何ともこそばゆい気持ちになった。






妻が大好き過ぎる。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] >革命が起こったら捕まって処刑される側の人間になってしまったので、万が一にもそんなことが起こらないように布石を打っているだけだ 殆どの権力者が「権力の在り方」が決して非対称ではない事に…
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