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嫉妬

街はお祭り騒ぎで盛り上がっています。





 お妃様レースで市井はお祭り騒ぎで盛り上がっていた。

 誰が優勝するかなんて、トトカルチョもこっそり行われている。

 ゼッケンと似顔絵で、優勝者の予想が盛り上がっていた。

 だがそんな街の喧騒も、王宮の一部で通常通りに仕事をしている人たちにはたいして関係ない。

 宝探しのゲームに使われているのは、王宮内の限られた場所だ。

 そこから遠く離れた執務室では、国王やラインハルトが仕事をしている。国王の側近として働くアドリアンやオーレリアンも同様だ。

 何日も休めるほど、国王達は暇ではない。休めば休んだ分だけ、仕事がたまるのはわかっていた。国王の仕事も皇太子の仕事も、国民が思うよりずっと激務だ。裁可が必要な書類は驚くほど多い。


「早く退位して楽になりたい」


 国王はぼやいた。祭りの時くらい、祭を楽しめる身分になりたい。市井のお祭り騒ぎを羨ましく思っていた。

 ため息混じりに、アドリアンを見る。


「自分の結婚相手を決めるレースをしているのに、ここで仕事をしていて、いいのかい?」


 問いかけた。


「かまいません」


 アドリアンは答える。


「レースのことはルイスと母に任せていますから」


 にこやかに微笑んだ。

 実はたいして、興味がない。


「まあ、その2人に任せておけば問題はないだろうが。自分の妃なのに、人任せで大丈夫なのか?」


 国王は祖父として、孫のことを心配した。


「私の妻を選ぶのではなく、未来の皇太子妃や王妃を選ぶんです。自分で選ぶより、2人に任せた方が無難な気がします」


 アドリアンは当たり前のように言う。


「それはそうだが……」


 国王は何とも複雑な顔で孫を見た。


「物分りが良すぎるのも、それはそれで心配なものだな」


 ぼやく。


「どういう意味です?」


 アドリアンは首を傾げた。


「お前達の父親のラインハルトは、国のために私達が選らんだ婚約者を気に入らないと、断り続けた。たぶん宛がわれた令嬢が嫌なのではなくて、勝手に宛がう私に反抗したかったのだろう。それなら自分で選べと開催したのがお妃様レースだ。そこで優勝したのがマリアンヌだ。だが、男爵令嬢だったことで未だにいろいろと陰口を叩かれている。それは耳に入っているだろう?」


 国王は問いかける。アドリアンとオーレリアンを見た。


「知っています。元は男爵令嬢のくせにと一部で言われていることは。でもそれをいうなら、大公家の血を継いでいて、その大公家の元は王族なんですけどね」


 オーレリアンは答える。


「自分に都合のいいところだけを切り取るのは貴族のお家芸だよ」


 国王は苦笑した。


「他に文句をつけるところがないから、生まれを持ち出すしかないんだ。散財することもなく、浮気に走ることもない。王家の子供を次々と生み、後継者問題も恙無くクリアしようとしている。自分の娘をラインハルトの妃にと望んでいた貴族達には、面白くない話だろう? 失敗の一つもすれば笑ってやれるのに、失敗らしい失敗もしない」


 その言葉に、アドリアンやオーレリアンは笑う。


「ただの嫉妬ですね」


 困った顔をした。


「ああ、そうだ。ただの嫉妬だよ。だが、その嫉妬が一番恐ろしい」


 国王は真面目な顔をする。


「嫉妬に狂った人間は、割りに合わないことをする。捨て身になった人間ほど、怖いものはない。保身を考えている間は制御もできるが、なりふり構わない相手は何をするのかわからない。自分がどうなってもいいんだから、やりたい放題だ」


 国王の言葉に、アドリアンとオーレリアンは互いを見た。不安になる。我が身に降りかかる災難は、自分で何とか出来る。だが大切な人に降りかかる災難は怖かった。失いたくない相手は弱味になる。


「何か、情報を掴んでいるのですか?」


 オーレリアンは聞いた。


「いいや、何も」


 国王は首を横に振る。


「一般論の話だ。だが、順調に物事が進んでいる時ほど、気をつけた方がいい」


 囁いた。


「肝に命じます」


 アドリアンとオーレリアンは頷く。油断しないようにしようと思った。








意外と城内は通常業務です。

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