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内緒の話

母はドキドキです。





 人払いがすんで、近くには誰もいなくなった。ただし、ドアのところには騎士が残っている。彼を追い出すことは出来なかった。

 マリアンヌは自分の隣に姫を呼ぶ。内緒話をするには距離が近い方が都合良かった。

 姫は少し緊張した顔でマリアンヌの隣に座る。


「あなたは何を知っているの?」


 静かな声で問いかけた。声を潜める。姫を怯えさせないよう、精一杯、優しく聞いた。


「わたしは……」


 姫は少し迷う顔をする。言葉を探した。


「見てしまったんです。アドリアン様達がとても……、仲良しなところを」


 悩んで、そんな言い方をした。いろいろオブラートに包む。


「そう……」


 マリアンヌは苦笑した。


(あのバカ息子どもめっ!!)


 静かな口調とは裏腹に心の中では怒鳴る。


(人目に付くような場所で、一体、何をしていたの?)


 知りたいが、知りたくなかった。頭が痛い。


「それはその……。見たくもないものを見せてしまって、ごめんなさい」


 謝るのも何か違う気がしたが、他に言葉が出てこなかった。


「いえ、そんな」


 慌てた感じで姫は首を横に振る。


「2人はなんていうか……、その……。幸せそうでした」


 言葉を選んだ。


(彼女は何を見たのかしら?)


 マリアンヌは気になる。

 だが、聞く度胸はなかった。感覚的には、せいぜいキスをしているのを見たくらいの感じがした。その程度なら……と思ってしまう自分を終わっているなとマリアンヌは思う。


「2人がそうであることを知っているならわかっているかもしれないけれど。アドリアンはきっと、誰のこともオーレリアン以上には愛さないと思うの」


 マリアンヌは告げる。


「わかります」


 姫は頷いた。


「アドリアン様とオーレリアン様はとても深く深く繋がっているのですよね」


 微笑む。


(いい子だな)


 マリアンヌはちょっと感動した。アドリアンとオーレリアンの関係を知って、そんな風に言ってくれるなんて心が広い。

 だが同時に、彼女は本当に2人がどういう関係なのか理解しているのか疑問に思った。

 もしかしたら、彼女は何か勘違いしているかもしれない。

 自分と彼女の間に、認識の違いがあるのでは不安になった。


「あの……。アドリアンとオーレリアンが何をしているところを見たのか、具体的に聞いてもいいかしら?」


 マリアンヌは迷った末に、聞く。


「何をって、その……」


 姫様は顔を赤くした。


「……」


 マリアンヌは黙って続きを待つ。


「アドリアン様とオーレリアン様は二つ年上で。生徒会で一緒になることは本来ならありませんでした。でもわたしは次の年の生徒会に入ることが決まっていたので、お2人が最上級生の時にたまに生徒会室に出入りしてお手伝いをしていたんです」


 姫は説明した。

 一般学生は立ち入れない生徒会室に出入りしていたことを話す。


「オーレリアン様はソファに座っていらっしやいました。その膝にアドリアン様が頭を乗せて横になっていて。2人は生徒会の仕事について話していたようです。オーレリアン様が書類を持っていたので、たぶんその書類の話だと思います。わたしは部屋に入ろうとしていました。でも、ドアに手をかけて引いたところで中に2人がいるのが見えて。中に入るのを躊躇したんです。2人は憧れの先輩で、同級生の女子はみんな先輩達のことが好きでした。そんな先輩たちと3人だけになる状況が恥ずかしくて、迷ったんです。そうしたら、横になっていたアドリアン様が突然、身を起こして。そのままオーレリアン様を押し倒して覆い被さりました。そしてその……キスしていました」


 時折言葉に詰まりながら、姫は顔を赤くした。


(キスだけ?)


 マリアンヌはそう聞きたかったが、それはぐっと堪える。

 他に何かあるんですか?――なんて聞き返されたら困る。


「それは……。驚かせてしまったわね」


 とりあえず謝った。


「いいえ。噂では、いろいろ聞いていたので」


 姫はにこりと笑う。

 マリアンヌの顔は引きつった。


「どんな噂?」


 恐る恐る尋ねる。二人の関係が噂になっていたなんて、聞いていなかった。


「2人がその……。兄弟以上の関係だと」


 姫はさすがにいいくい顔をする。


「……」


 マリアンヌは黙り込んだ。

 姫は不安そうにマリアンヌを見る。


「わたし、余計なことを話しましたか?」


 問いかけた。


「いいえ、全然」


 マリアンヌは否定する。


「その噂、寄宿学校の生徒ならみんな知っているのかしら?」


 確認した。


「知っていると思います」


 姫は頷く。


「2人の関係を見守る会とか同級生の中にはあったそうです」


 正直に全部教えてくれた。


(ではアルステリアの貴族であるあの子も当然、知っているのね)


 そんな感じの言葉はちらりとも彼女は口にしなかったが、同級生なのに知らないとは思えない。


「いろいろ教えてくれて、ありがとう。寄宿学校時代のことはわたしも知らないことが多いので、話を聞けて良かった」


 マリアンヌは素直に礼を言った。


「いいえ」


 姫は嬉しそうに笑う。その笑顔を可愛らしいとマリアンヌは思った。







母が思っていた以上にバレていました。

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