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見合い日和

断るために見合いするのも気が重いのです。






 見合いの日は無駄に天気が良かった。

 離宮の中は朝からばたばたしている。見合いの準備に使用人達は追われていた。

 考えてみれば、離宮には今まで特定の人しか招いたことがない。客間までとはいえ、いろんな人が週末に訪れることになるのだと思うと、マリアンヌはちょっと気が重かった。

 せっかくの休日だというのに、休まらない。

 離宮ではなく、王宮の中の一室に見合い場所をセッティングすれば良かったかと後悔した。


(いや、まだ遅くない)


 マリアンヌは思いなおす。

 明日以降は場所を変えようと、アントンに指示を出した。今日の明日で急な話だが、アントンはああ見えて有能なのでなんとかしてくれるだろう。

 アントンの父が国王の侍従長なので無理が通るのも織り込み済みだ。


(どうせ王宮でやるなら、暇な時には陛下にも参加してもらえばいい)


 国王も巻き込んでしまおうと、画策する。

 意外と悪戯好きの国王は、気が向けば参加してくれるだろう。未来の王妃は国王だって気になっているはずだ。


 そんないろいろ考えているマリアンヌとは対照的に、アドリアンは涼しい顔をしていた。母の苦労など何処拭く風だ。

 見合いのために取り繕うつもりなど微塵もないように見える。


「少しは愛想をよくした方が良いのではなくて?」


 見兼ねて、マリアンヌは注意した。

 客が来るのはこれからだが、朝からアドリアンは機嫌が悪い。ぶすっとしていた。

 見合いが嫌であることを隠そうともしない。


「これから長い時間を過ごすことになるかもしれない相手に、嘘をついてどうするんですか?」


 アドリアンは言い返した

 それは正論だ。本当にそういうつもりであるなら、マリアンヌとしても納得する。むしろ、長い時間を過ごすつもりはあるのだと、ちょっとほっとした。

 だがそれはただの言い訳だとわかっている。マリアンヌは眉をしかめた。


「取り繕うのが面倒なだけでしょう?」


 息子を叱る。


「まあまあ」


 そんなマリアンヌをオーレリアンが宥めた。


「でも実際、見合いの席では愛想がよくて、結婚したら無愛想で冷たいとなったら相手の令嬢は騙されたと思うでしょう。それなら、最初から本性を出した方がいいかもしれません」


 アドリアンをフォローする。

 その言葉に、アドリアンはうんうん頷いていた。


「オーレリアンはアドリアンを甘やかしすぎよ」


 マリアンヌは眉をしかめる。


「すいません」


 オーレリアンは謝った。自分でも甘やかした自覚はある。

 オーレリアンから見たら、アドリアンはかなり年下だ。見た目は同い年だが、オーレリアンの中身は年齢的にはぐっと上になる。年相応のアドリアンは可愛くて仕方なかった。

 そしてそんなオーレリアンにアドリアンは無償の愛を向ける。

 長い間王族として転生を繰り返してきたが、オーレリアンは家族から愛情を受けた記憶はほぼなかった。王族の家族はどこか殺伐としている。兄弟は王位を巡るライバルだ。親や子でさえ信じていい相手とは限らない。

 だが今の家族は違う。オーレリアンは家族を、アドリアンを、信じていた。アドリアンに裏切られて殺されるのなら、それはたぶん自分が悪いのだと思ってさえいる。


「別に責めているわけではないのよ」


 マリアンヌは苦く笑った。

 優しい手がオーレリアンの頬を包み込む。


「オーレリアンの負担が大きいことを心配しているだけ」


 マリアンヌは微笑んだ。

 オーレリアンの中身が何代もの記憶を持つ老齢の魂であることを知っていても、マリアンヌはわが子として、年若い息子として、オーレリアンを扱う。

 今のオーレリアンは間違いなく自分が産んだ息子だ。

 それがオーレリアンにはとても嬉しい。

 母の手に自分の手を重ねて、目を閉じた。その温もりを堪能する。

 それがふっと消えた。

 母の手が自分の手の中からなくなる。


「?」


 不思議に思って目を開けると、アドリアンがマリアンヌの手を掴んで引いている。


「何しているんですか?」


 とても嫌そうな顔をした。

 マリアンヌはそんなアドリアンに驚いている。


「母にまで嫉妬するの?」


 目を瞠った後、笑った。

 笑われて、アドリアンはムッとする。掴んでいた手を離した。

 だが、嫉妬したことは否定しない。


「こんな調子で、今日の見合いは大丈夫なのかしら?」


 マリアンヌは不安な顔をした。


(たぶん、駄目だろう)


 そう思ったが、オーレリアンは口にしない。

 曖昧に、ただ笑った。





もしかしたら……という期待はゼロではないのですが、ほぼ諦めています。


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