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不満

蚊帳の外が寂しいのです。





 ラインハルトは不満に思っていた。

 自分の息子の見合いの話なのに、自分は蚊帳の外に置かれる。多忙を理由に、話し合いから外された。


 仕事が溜まっているので、そんなことに割く時間はありません。――そう言ったのはいつも有能な側近だ。


 ルイスに臍を曲げられるといろいろと大変なので、わたしはルイスの意見の方を尊重します。――そう言ったのは、最愛の妻だ。


 従兄弟同士である2人は変なところで気が合う。普段は特に仲良くしているわけでもないのに、ここぞという時には打ち合わせもしていないのに一致団結した。


 最近思うのだが、彼らは皇太子の扱いが軽すぎる気がする。自分はもう少し、尊重されてもいい存在なのではないかとラインハルトは思っていた。


 そして今日、見合いについてだいたい決まったと、マリアンヌから報告を受ける。

 2人きりになった夫婦の時間。マリアンヌといちゃつこうとその腰に手を回したら、そう言えばとマリアンヌは切り出した。

 週末に一日三組の家族と顔合わせを行う予定らしい。

 さすがに多すぎないかと思った。

 見合いとは普通、顔を合わせて、食事をして。その後少し2人で話をして……という感じで半日くらいかけて行われる。

 だがマリアンヌの言う顔合わせは、みんなで一緒に飲み食いするだけのようだ。本当に顔を合わせるだけになるだろう。

 昼食、お茶の時間、夕食をそれぞれ違う令嬢と一緒にとるようだ。


「それは見合いなのか?」


 ラインハルトは疑問を呈する。


 時間がないのはよくわかる。申込書を受け付けたら、洒落にならない数が来た。

 中には、かつて見合いを申し込んだ方の娘はすでに別の貴族と婚姻したので、その権利を妹に譲渡させて欲しいという申込もあった。姉が駄目なら、妹に……ということらしい。面倒なので、そういうのも全部受け付けた。するとその話を聞いたほかの貴族が家も家もと言い出して、さらに増える。

 一日に3組くらい消化していかないと、いつまで経っても見合いは終わらないのだろう。だが、それにしても事務的だと思った。

 顔合わせをすれば文句はないでしょう? という気持ちが透けて見えすぎる。


「それに不満がある方はお断りしてくださいと伝えます。断っても、なんの不利益も出ないことは保証しましょう。人数と時間の関係で、そういう方式でしか顔合わせが出来ないことももちろんお知らせします。納得していただけるかどうかはわかりませんが」


 マリアンヌは説明した。そこにはいつもの熱量がない。あまり気乗りしていないのがわかった。

 マリアンヌはむしろ、断ってくれと思っているのだろう。アドリアンに結婚を勧めながら、マリアンヌにはあまりその気がないように見える。

 お妃様レースも、アドリアンの妻を捜すためというよりはイベントとしてレースを盛り上げることに熱心になっているように見えた。


「マリアンヌは本当はどうしたいんだい? 結婚相手を見つけなければいけないと言いながら、本当はそれほど乗り気ではないように見える」


 ラインハルトは尋ねる。


「そうですね」


 マリアンヌは頷いた。


「本音を言えば、結婚するのもしないのも本人の好きにさせてあげたいです。わたしはアドリアンを結婚に向いている性格だとは思っていません。でも、わたしがそう思うのと本人が何を望むのかは別の問題です。しかしそれが許されない状況であることはわかっています。王子として生まれ、将来国王になるなら跡継ぎ問題は避けて通れません」


 渋い顔で答える。

 アドリアンは結婚には向いていない。だが、王には向いていると思っていた。

 アドリアンが王になり、それをオーレリアンが支えるのがこの国にとってはベストだと考えている。

 そしてそうなるよう、布石は打ってきたつもりだ。

 だがその反面、アドリアンに対しては申し訳ない気持ちがある。いろんなものを一人で背負わせて、悪いと思っていた。だからこそ、せめて結婚相手くらいは自分で選ばせてあげたい。もっともそれさえも、出来ないかもしれないけれど。


 本人はいい子でも、その後ろにいる両親や一族に問題がある場合もある。将来的に王妃になる可能性が高い分、選別は簡単ではない。

 貴族にとってはわが子さえ、駒の一つだ。

 自分の父のように、娘を出世や権力の道具にしない方が貴族には稀だ。

 欲は誰にだってある。

 そしてそれは容易に人を変える。


 マリアンヌの周りには幸い、強欲な人は少なかった。

 そういう可能性がありそうな人は最初から排除し、狭い世界でマリアンヌは生きてきた。

 だがアドリアンやオーレリアンはそういうわけにはいかないだろう。


「結婚して、妻の実家のことでアドリアンが苦労するという事態だけは避けたいですね」


 マリアンヌは真顔でラインハルトを見た。


「義父上みたいな人は稀なのだよ」


 ラインハルトは困った顔をする。


「それは知っています」


 マリアンヌは頷く。なんせ、12歳の娘が結婚しないで家に残ると言ったのを容認するくらいだ。変わっている。例えそれが跡継ぎの男子のためでも、普通の親ならさっさと娘を嫁に出すだろう。


「わたしは恵まれていたのです」


 マリアンヌはそのことを自覚していた。


「義父上には感謝しかないな」


 ラインハルトはマリアンヌ抱きしめる。

 マリアンヌは黙って、ラインハルトの背に手を回した。


「アドリアンにもそういう相手が見つかればいいのに」


 ラインハルトはため息を吐く。それが難しいことは、よく知っていた。








マリアンヌみたいな令嬢が他にいるわけないと思っています。


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