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見合い

感情より損策が優先するのが貴族の見合いです。





 お妃様レースの告知は恙無く貴族にも市民にも終わった。

 貴族の反応はいまいちわからないが、市民には好意的に受け止められる。

 市井はその話題で持ちきりだ。あちらこちらで盛り上がっている。

 その反応はラインハルトの時よりも大きかった。

 だがもちろん、そんなことをマリアンヌは知らない。


 今、マリアンヌの頭の中は今、アドリアンの見合いのことでいっぱいだ。

 希望者に申込書を出させたら、当初より明らかに増えている。


「何故、増えているのかしら?」


 確か、今届いている申込者に関しては見合いをすることで対応という話になっていたはずだ。新たに受け付けるとは聞いていない。

 書類を持って来たルイスに尋ねた。

 アドリアンの見合いの件で打ち合わせしたいとルイスに連絡を入れたら、書類を持っていくので離宮で待っていて欲しいとマリアンヌは言われた。

 自分がラインハルトの執務室まで訪ねるつもりでいたので、訝しく思う。

 マリアンヌが来るとラインハルトが仕事の手を止めてしまうからだと説明されて、納得した。

 ラインハルトも暇ではない。時間がないから、アドリアンの見合いの調整はマリアンヌとルイスが2人でやることになった。

 仕事の手を止められるとラインハルトを話し合いから外した意味がない。


「その予定でしたが、不公平だという話になりまして」


 ルイスは困った顔をした。

 見合いの申込は何年も前からあった。相手にされないと諦めてしまった貴族もいる。そういうところから、自分達が申し込みしていた時はそんな対応してくれなかったのに……的な不満が上がった。

 その不満を抑えることは出来なくない。だがそれより見合いに参加させてしまった方が簡単だとルイスは考えた。

 ラインハルトに相談して、見合いを申し込める資格を今まで、見合いの申込をしたことがある相手とした。範囲を広げる。その結果が申込書の数に表れていた。

 ルイスはそれを説明する。


「なるほど」


 マリアンヌは納得した。


「でも、困ったわね」


 眉をしかめる。

 当初より人数が増えたので、一日一組なんてことをしていたらいつまでも終わらないことに気づいた。


「昼食、お茶の時間、夕食と全部違う令嬢を招いてさくさくと顔合わせだけ終わらせる方式にした方が無難かしら?」


 マリアンヌは真顔でルイスに問う。


「だいぶ事務的ですね」


 ルイスは苦笑した。


「でも、そうでもしないとこの人数、終わらないんじゃない?」


 マリアンヌはぱらぱらと申込書を手で捲る。


「平日は仕事しているから、見合いに時間を割けるのは週末だけよ」


 どうする?と問うような目でルイスを見た。


「とりあえず、アドリアン様に確認してはいかがですか? せっかく決めても、本人に逃げられたら何の意味もありません」


 ルイスは尤もなことを言う。


「それもそうね」


 マリアンヌは頷いた。見合いの方式はアドリアン本人と相談することにした。






 仕事を終えて帰ってきたアドリアンにマリアンヌは声をかけた。見合いの件で話があるから、夕食の後に時間を取るように言う。

 アドリアンは約束通りに時間を作った。しかし、オーレリアンを一緒に連れてくる。

 別にオーレリアンがいても問題ないが、わざわざ連れてきたのは気になった。


「一応確認するけど、貴方の見合いだということはわかっているわよね?」


 マリアンヌは尋ねる。


「もちろん」


 アドリアンは頷いた。


「だから、オーレリアンも連れてきました。見合いの席にも同席させます」


 にこやかに続ける。


「え?」


 驚いたのはマリアンヌだけではなかった。オーレリアン本人も初耳らしい。

 さすがに見合いの席に同席するつもりはなかったようだ。

 目を丸くして、アドリアンを見る。


「どうして?」


 マリアンヌは冷静に、理由を問うた。驚いたが、なんとなく予想はしていたので立ち直るのも早い。


「オーレリアンと上手く付き合えることが最低条件だからです」


 アドリアンは答えた。


「なるほど」


 マリアンヌは頷く。筋が通らなくもない気がした。もっとも、言っていることは可笑しい。だが実際問題、オーレリアンと相性が悪いのはいろんな意味でこちらが困る。そこは大事かもしれないとは思った。


「実は予定より、見合いする人数が増えそうなの。だから、昼食、お茶の時間、夕食と全て違う令嬢を招いて、3組の顔合わせを一日で済まそうと思っています。それでどうかしら?」


 マリアンヌはアドリアンに聞く。


「ちょうどいい」


 アドリアンは微笑んだ。


「家族が集まる食事やお茶に相手を招けば、オーレリアンがいても不自然ではないし、母様も自分の目で相手を確かめられて都合がいいのでは?」


 マリアンヌに聞く。


(オーレリアンを同席させることの不自然さには気づいているのね。良かった)


 マリアンヌはほっと胸を撫で下ろした。常識がないわけではないらしい。


「それはまあ、そうね」


 マリアンヌは認めた。


「でもわたしなら、そんな気まずいお見合い嫌よ」


 困った顔をする。


「一人で来るのが嫌なら、両親を連れて来てもいいということにするのはどうでしょう?」


 アドリアンは提案した。


「両親を?」


 マリアンヌは考える。

 悪くない話だと思った。本人のことも気になるが、それ以上にその両親のことが気になる。背後に煩い親がついているのは問題外だ。

 マリアンヌの結婚がわりとすんなり了承されたのは、父親が出世や権力に興味がない人間だったというのが大きい。そのことをマリアンヌは後日、知った。

 娘の立場を利用して、美味しい思いをしようとする野心家は困る。


「わかったわ。では、そうしましょう」


 マリアンヌは了承した。

 本当は若い2人でどうぞと言いたいところだが、アドリアンに任せるのは不安がある。無体なことはしないだろうが、冷たくされた相手が傷つきそうで怖かった。


「いいんですか?」


 オーレリアンは戸惑う顔をする。

 あっさり、アドリアンの提案に乗った母を信じられないという目で見た。


「一番、無難だと思わない?」


 マリアンヌは逆に聞く。他にいい案があるなら、教えて欲しいとその顔は語っていた。


「それは……」


 オーレリアンは言いよどむ。案は何もない。確かに、現状を考えると悪くはなかった。


「では、その方向で話を進めましよう」


 マリアンヌは決めてしまう。早速、ルイスに連絡を入れた。








母は母でなかなかの人だったと、オーレリアンはため息をついています。父は蚊帳の外です。外されているので

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