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20年も経てば祭りもいろいろ変化します。





 1年に一度のその祭りを市民はみんな楽しみにしていた。

 普段はおしとやかであることを求められる未婚の女性が、こぞって街中を走り回る。街の中には障害物が作られ、梯子を上ったり、ちょっと高いところから飛び降りたり、アスレチック的な要素があった。ルートは決められており、チェックポイントが設けられている。そこでスタンプを押すというスタンプラリーにもなっていた。

 一応は速さを競う競技で、上位に入ると特典があった。好きな人に告白することが出来るというよりは、最近は賞金目当ての方が多い。そのせいか、上位を狙うガチ勢の姿には鬼気迫るものがあった。

 しかしそんな勝敗に拘って入る参加者はほんの一部だ。たいていの参加者はただ祭りを楽しんでいる。

 そんな女性を沿道の人々は花びらを投げて応援する。

 花びらが舞う中を楽しげに駆けていく女性は3割り増し美しく見えた。そのため、祭りの後に結婚が決まる女性は少なくない。

 このレースにはそういう目的で参加する女性も多かった。

 最近では、自分から告白するためというより、誰かに見初めてもらうためという方が主流だ。

 それはそれで構わない。商工会的には、年々、参加者が増えて盛況なことの方が大切だ。参加者は参加費を払ってくれる。

 それはほぼ経費でとんとんだったが、商工会的にはそれでかまわない。その分、商売の方で潤っていた。祭りの日はいろんなものが飛ぶように売れる。観光客も多く、宿屋も飲食店も盛況だ。今では屋台も出る。


 見に来る観客も確実に増えていた。特に裕福な独身男性は未来の花嫁をここに探しに来る。他に女性と知り合う機会はそうなかった。自分で自分の花嫁を選びたい男性には祭は何とも都合がいい。

 見初めた女性のことは後から調べることが出来た。参加女性の多くはゼッケンを着けている。商工会は参加者名簿を持っていて、問い合わせに対応していた。自分の身元を調べられたくない女性は初めからゼッケンをつけない。

 出会いの場として、祭りは活用されていた。

 そういう意味でも祭りの需要は年々、高まっている。近隣からも参加する人も増えた。

 男女共に若い世代が祭を楽しみにしている。


「今年も盛況だな」


 商工会の代表を務めているオキシンは満足そうに呟いた。商工会の建物の二階から、盛り上がっている街の中を見下ろしている。

 彼は商工会メンバーがマリアンヌに集められた時、いろいろ質問した人だ。まだ30代後半で若いが、すでに代表の地位についている。彼の父親が引退し、その地位を引き継いだ。

 父親以上に商魂逞しいとすでにその名前を轟かせている。そうでなければ、あの場でマリアンヌに質問などできないだろう。

 不敬だと、斬り捨てられる可能性がないわけではなかった。

 王族や貴族とはそういうものだ。

 マリアンヌは平民に対してもフラットだが、そういう貴族の方が珍しい。

 だが、本物のお妃様レースが開かれるからといって、市民の祭を中止にされるわけにはいかないという思いがオキシンにはある。

 あれはあれ、これはこれだ。

 本物のお妃様レースが開かれるのはいい。それはそれで盛り上がるだろう。だがどうせなら、ダブルで美味しい思いをした方がいいに決まっている。

 咄嗟にそう判断して、あの場で無礼なのは承知の上でマリアンヌに提案した。

 変わった皇太子妃だと有名なマリアンヌなら、話を聞いてくれるかもしれないという可能性にかける。

 駄目でもともとのつもりで自分の考えを口にしたのに、意外にもマリアンヌは乗ってくる。オキシンの考えに賛成してくれた。

 話のわかるマリアンヌに、オキシンは少なからず驚く。

 変わっていると言うのは本当だと思った。

 だがもちろん、上手い話ばかりではない。

 マリアンヌはちゃっかりしていた。市民の祭を同時開催することを認めた分、仕事を押し付けてくる。

 翌日も同じルートを使って、お妃様レース参加者が予選をすることになった。

 その際にかかる人件費もこちらで持つことになりそうだ。だがそのくらいなら問題ない。

 なにより、観戦チケットを売ることが出来そうだ。

 貴族達に売ることが出来れば、高額な値段設定が出来る。来年のレースのルートは、観客席を出来るだけ多く作れるような場所を通すようにしようと決めた。今年の祭もまだ終わっていないのに、もう来年のことを考えている。

 あれこれ計画を立てるのは、個人的にとても楽しかった。

 それが商売繁盛に繋がるなら、なおさらだ。

 金儲けが大好きな自分はとことんに商人に向いているとオキシンは自分で思っている。


(それにしても、変わった皇太子妃だった)


 金儲けの予感に笑いが止まらないオキシンは、改めてマリアンヌのことを思い出した。

 王族としては何とも地味な女性だ。

 だが頭の回転は良さそうだ。こちらの意図を理解するのも早い。

 そしてたぶん、虚より実を取るタイプだ。貴族としては本当に珍しい。

 そんな彼女が将来、王妃になる。

 それはある意味楽しみなことではないだろうかと思った。もしかしたら、今よりもっと商売がやりやすくなるかもしれない。

 ぜひマリアンヌには頑張って欲しいと、思った。







味方かどうかはわかりませんが、敵対するつもりはない人です。


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