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根回し 2

ルイスはいつも頑張っています。

評価&ブクマ&感想、そして誤字脱字報告、いつもありがとうございます。m__m





 ルイスはリストを作成した。

 アドリアンに自分の娘を嫁がせたがっている貴族の名前を羅列していく。

 それは思いの他、多かった。


(自分の娘を未来の王妃にと思う連中は少なくないということか)


 ため息を吐く。

 そういう穿った見方しか出来ない自分にもうんざりだ。だが実際のところ、そうなのだろう。

 ランスロー男爵のように、娘の邪魔にならぬように自ら縁を切る親の方が貴族としては珍しい。男爵が王子妃の縁者として権力を揮うことがないから、ランスロー領は今でも平和で穏やかだ。

 だがそういう幸せもあるのだということを、王都にいる貴族達に理解しろというのも無理な相談だろう。


 ルイスは頻繁に離宮に足を運んでいるわけではない。家族の団欒に自分は邪魔だと思うし、幸せな家庭というのを見せ付けられても困ると思った。

 だが食事やお茶に招かれることはあるし、子供達と接する機会も普通の貴族達よりはずっと多い。だから子供達の性格もそれなりに知っていた。


 アドリアンは恐ろしく記憶力がいい。何でも覚えていて、忘れない。マリアンヌやオーレリアンははそれを普通のことのように扱うが、ルイスには普通だと思えなかった。

 そして記憶力がいい分、他人の失敗には厳しい。相手がミスしたことを忘れられないようだ。

 そして案外、独占欲が強い。

 今、その独占欲は双子の片割れであるオーレリアンにのみ向けられていた。オーレリアンを自分のものにし、独占することでその欲は満たされている。逆に言えば、オーレリアンを失えばそのバランスは崩れるだろう。そうなった時、アドリアンがどうなるのかはルイスにも予想がつかない。

 アドリアンが良き王になるためにはオーレリアンの存在は必須だ。2人は決して、引き離してはいけない。

 オーレリアンはオーレリアンで何とも不思議な子だ。

 小さな頃から大人びていて、底が見えない。子供としては明らかに異質なのに、マリアンヌは全く気にしなかった。それどころか、一人の人間として、小さな頃からオーレリアンの意思を尊重している。

 マリアンヌは子育てさえ独特なのだと、ルイスは思った。

 そういえば、マリアンヌは前世の自分の記憶があると言っていた。それはこことは違う世界で、考え方も異なるらしい。マリアンヌの考え方はその世界に準じているようだ。だが、いろんな知識を持っているといいつつ、マリアンヌはあまりその知識を表に出そうとしない。技術の進歩が必ずしも人を幸せにするとは限らないというのがマリアンヌの信念のようだ。出来るだけ、この世界にない技術は使わないと決めているらしい。そう言いつつ、自分が美味しい米料理を食べるためなら、その技術を惜しみなく使うあたりがマリアンヌらしい。美味しいものを食べる労力は惜しまない。


 双子はそういう母親に育てられたから、少し変わった子供に成長したのかもしれないとルイスは最初、思った。

 だが、エイドリアンを見ていると違うとわかる。双子の兄達に比べ、三男はずっと常識的だ。

 社交もきちんとこなし、貴族達の評判もいい。

 娘の幸せを第一に考えれば、3人のうちの誰に嫁がせればいいのかは明白だ。

 実際、エイドリアンに鞍替えした貴族は少なくない。

 だが、エイドリアンが皇太子、ひいては国王になることは万に一つもない。

 ラインハルトもマリアンヌも次の皇太子はアドリアンと決めていた。そのための布石も数々、打っている。

 今のところ、その布石は有効に作用していた。

 市民でさえ、次の皇太子はアドリアンだと思っている。


 市民には何の権利もない。しかし、世論というのは意外と大きな力を持っていた。味方につけて損はない。


(お妃様レースの告知をしたら、またアドリアン人気が上がりそうだな)


 ふと、ルイスはそう思った。

 レースには前回同様、平民の令嬢も参加できる。もちろん、貴族ではない彼女達が参加するには条件があった。そこそこ高額な参加費を払う必要がある。参加費が払える程度の財力を持っていることが最低条件だ。本当に誰でも参加できるわけではない。何の後ろ盾もなくやっていけるほど、王宮は甘い場所ではなかった。

 それでも、平民にもチャンスがあるという事実は大きい。イベントは大いに盛り上がるだろう。

 おそらく、マリアンヌはそこまで意図してはいないに違いない。

 アドリアンの結婚相手選びが難航し、丸投げしたくなっただけだろう。

 なんとなく、想像がつく。

 それでも、物事が良い方に転がるのは運を味方につけているからだ。

 マリアンヌは運を持っている。だが本人はおそらく、自覚していないだろう。


 諸々を考えると、お妃様レースを開催するのは悪くない。成功させ、さっさとアドリアンの妃を決めてしまうべきだろう。

 もしかしてエイドリアンにも可能性があるのではないかと、夢見る連中の目を覚まさせるためにも必要だ。

 アドリアンにほぼ決まっていることを、覆されたら厄介なことになる。

 ルイスのやる気スイッチがかちりと入った。

 まずは開催に反対しそうな重臣達を懐柔することにする。


「さて、誰からにするかな」


 リストを見て、ルイスは思案した。








意外と悪くない案だなと思っています。

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