気まずい朝
翌朝、いろいろ気まずいのです。
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明け方に話した内容をマリアンヌは忘れたわけではなかった。だがぐったりと身も心も疲れた中だったので、頭があまりまわっていなかった。
翌朝、もう一度ラインハルトに詳しく聞こうと思ったのに、それどころではなくなる。
(腰が立たない)
起きようとして、起き上がれないことに気づいた。
「マリアンヌ?」
隣に寝ている妻の異変に気づいたラインハルトが声をかける。
「……」
恨めしげにマリアンヌは夫を見た。
それだけでラインハルトは察する。
「ごめん」
謝った。別にわざと動けなくなるような無体を強いたわけではない。
「大丈夫か?」
問いかけた。
「誰のせいですか」
普段なら心の中にしまっておく声をマリアンヌはあえて口にした。
「私のせいだね」
ラインハルトは認める。その顔はどこか嬉しそうだ。
マリアンヌはイラッとする。
それに気づいたラインハルトはこほんと一つ咳払いした。
「午前中いっぱいは休んでいた方がいい。アントンやメアリには私から伝えておこう」
そう言う。
「はあ」
マリアンヌはため息をついた。
「いろいろ話を聞きたかったのに……」
そんな余裕は今のマリアンヌにはない。
「帰ったら、いくらでも話すよ」
ラインハルトは言った。
少し顔色の悪い妻の額にキスをする。
「マリアンヌはふだん頑張り過ぎているから、たまには休むといい」
優しい言葉をかけた。
「いい感じに言っていますけど、元気な状態で休養を取るのと、動けなくて寝込むのは全く違いますからね」
マリアンヌは文句を言う。子供みたいに口を尖らせた。
「結婚して20年経っても、未だに妻が愛らしくて……」
ラインハルトは恥ずかしいセリフを恥ずかしげもなく言う。
そういうところは生粋の王子様なのだと、マリアンヌは苦笑するしかなかった。
「わかりましたから、もう行ってください。時間ではありませんか?」
会話をするだけ自分の精神がダメージを受ける気がして、マリアンヌは追い払おうとした。せめて、静かに休ませて欲しい。
「名残り惜しいな」
ラインハルトは切ない顔をする。
「昨夜の君はいつもに増して素晴らしかったよ」
真顔でそんなことを言い始めた。ラインハルト的にはピロートークのつもりかもしれないが、そういうのを喜ぶ時期はとっくに過ぎている。
(本当に勘弁してください)
マリアンヌは心の中で悲鳴を上げる。羞恥心で死ねると思った。
「それ以上恥ずかしいことを口にしたら、一週間、おさわり禁止にします」
宣言する。おさわりって風俗かよと言った自分でも突っ込みたくなったが、これがラインハルトには地味に効くことを知っている。他人にはともかく、妻に対してラインハルトはスキンシップ過多だ。隙あらば、マリアンヌの身体に触れようとする。
「それは困るね」
ラインハルトは今度は本当に困った顔をした。
「おやすみ。ゆっくり休んで」
マリアンヌの額に触れるだけのキスを落としながら、ラインハルトは言った。寝室を出て行く。
「はあ……」
やっと1人になれたと、マリアンヌは息を吐いた。
トントントン。
ノックの音にマリアンヌは目を覚ました。いつの間にか、寝ていたらしい。
「はい」
マリアンヌは返事をした。
「お母様」
呼びかける声は娘のものだ。
「どうぞ」
マリアンヌは入室を許可する。
メアリと共にメリーアンが部屋に入ってきた。
心配そうな娘の様子に、マリアンヌはふっと笑みを浮かべる。身を起こそうとするのを見て、メアリが駆け寄った。手を貸す。
「どうしたの?」
枕を背凭れにして身を起こしたマリアンヌは尋ねた。
「具合がよろしくないと聞いて……」
見舞いに来たことをメリーアンは告げる。
「大丈夫。少し疲れただけよ」
マリアンヌは微笑んだ。実際、一眠りしたらだいぶ身体が軽くなった。この調子なら、昼には起きられるだろう。
「本当? お兄様にはお母様とお父様が仲良しなだけだから気にすることはないって言われたけど、わたし、心配で……」
目をうるうるさせる娘の一言に、マリアンヌは軽く打ちのめされた。息子達に気づかれていることを知る。あの状況だからそうだろうと思ったが、知りたくはなかった。
「メリーアンは優しい子ね」
動揺を隠して、マリアンヌは誉める。その顔は少しばかり引きつっていた。
娘に悪意がない分、いろいろ気まずい。




