夫婦
バカップルです。
マリアンヌは何故こんな状況になっているのか、理解できなかった。一体いつ、ラインハルトのスイッチを押してしまったのだろう。
手を引かれて歩きながら、そんなことを考えていた。
だが、そんな場合ではないと思い直す。
「息子達の前で、何を考えているんですか?」
とりあえず、ラインハルトを叱った。
あれでは今からやりますと宣言したのと変わらない。両親のそんな宣言、息子達は聞きたくないだろう。
マリアンヌも明日、顔を合わせるのが気不味かった。
「両親が仲のいいところ見せて、何の問題があるんだ?」
ラインハルトは真顔で聞き返す。振り返って、マリアンヌを見た。だが、足は止めない。真っ直ぐ寝室に向かっていた。
「問題ありますよ。年頃の息子達の前で、そういうの止めてください。わたしが恥ずか死にます」
マリアンヌは頬を膨らませた。
だがそんなところもラインハルトには可愛く見えるので、何の効果もない。
寝室に入ると、そのままベッドに向かった。
マリアンヌを押し倒して、上から覆い被さる。
「ラインハルト様!!」
全く聞く耳を持たない夫に怒るマリアンヌの唇を自分の唇で塞いだ。舌を差し入れる。
「ん~っ、ん~っ」
マリアンヌはしばらく抵抗したが、無駄だった。ラインハルトに止めるつもりなんてない。抵抗されるとそれはそれで萌えた。いつもとは違うことに興奮する。
それに気づいて、マリアンヌは抗うのを止めた。
単純に、力尽きたというのもある。
「ん……っ」
漏れるマリアンヌの声が甘いものに変わったことにラインハルトは気づいた。
ようやく、唇を離す。
唾液が糸を引き、マリアンヌは微妙な顔をした。
「愛している」
ラインハルトは囁く。
「知っています」
マリアンヌは小さく笑った。
結婚して20年経っても、こんなにも求められている。愛されていないかもしれないと疑う方が難しかった。
「マリアンヌ」
情欲に濡れた瞳がマリアンヌを映す。王子様はこんな時でもキラキラしていた。美しい顔立ちの分、妙な迫力がある。
「落ち着いて」
いつになく興奮している夫にマリアンヌは囁いた。
「逃げたりしないから、優しくしてください」
ラインハルトの頬に手を伸ばし、優しく撫でる。
その手を自分の手で包み込んで、ラインハルトはマリアンヌの手にキスをした。愛おしそうに目を細める。
ふっとマリアンヌは笑った。
あの日――お妃様レースに出ることを決めた日――、こんな未来が来るなんて予想もしなかった。
(王子に溺愛され、20年経ってもこんなに求められているなんて……)
何とも不思議な気持ちになる。
だが同時に、少し心配になった。
「わたしが先に死んだら、貴方はどうなるんでしょうね? 心配で、死ねません」
苦く笑う。
「ああ、そうだな。死ぬ時は一緒に連れて行ってくれ」
冗談ではなさそうな顔でラインハルトは言った。そのまま、マリアンヌの胸に顔を埋める。想像してしまったのか、その身体は小さく震えていた。
「大丈夫。わたしは図太いからきっと長生きします」
マリアンヌは優しく宥めた。ラインハルトの頭を抱え込む。
「……」
ラインハルトは黙り込んだ。
しばらくしてから、少しだけ顔を上げてマリアンヌを見る。
「私が死ぬときも一緒に死んでくれるだろうか?」
真顔で問うた。その声は不安に揺れている。
「え?」
マリアンヌは小さく首を傾げた。思いもしないことを言われて、驚く。
「一緒に死んで欲しいのですか?」
逆に聞いた。
「ああ。1人になったマリアンヌが再婚して、他の男がこの身体に触れると思うと、耐えられない。私以外の誰にも、触れさせないで欲しい」
真摯に訴えられる。
こういうところが可愛いとマリアンヌは思った。
「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。わたしのこといくつだと思っているんですか? 再婚の話なんてあるわけないでしょう」
からからと笑う。
「……」
だが、ラインハルトは納得しなかった。じっと、マリアンヌの返事を待つ。
「約束しますよ」
マリアンヌは頷いた。
「その時が来たら、一緒に死にましょう」
微笑むと、再び唇をキスで塞がれる。今度はマリアンヌの方から積極的に舌を絡めた。
どうしてこんなにマリアンヌが好きなのか、本人もわかっていません。理由なんてないけど、とにかく好きなのです。




