息子達
2人の仲の良さは子供達にも影響を与えています。
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母が父に連れ去られるのを息子達は呆然と見送った。止めるタイミングを逃してしまう。
両親の力関係を初めて知った気がした。ずっと母の方が強いと思っていたが、そうでもないらしい。
母は抗う間もなく連れて行かれた。
後には気まずい空気だけが残る。
エイドリアンはちらりと兄達を見た。
「話し合いは終わったということですか?」
困惑した顔で問う。沈黙が何とも重苦しかった。
「まあ、そうかな」
オーレリアンは曖昧に頷く。苦く笑うしかなかった。
「問題は何も解決していないけどな」
当事者のアドリアンが他人事のように言う。
オーレリアンは眉をしかめた。
「他人事みたいな顔をするな」
叱る。
オーレリアンがアドリアンを叱ることなんて滅多にないので、それはちゃんとアドリアンに届いたらしい。
アドリアンは肩を竦めた。
「珍しく、母様は本気で怒っていたぞ」
やれやれという顔でオーレリアンはアドリアンを見る。
「どうするつもりだ?」
真面目に聞いた。
「どうするもこうするも……」
アドリアンは苦く笑う。言葉が続かなかった。どうすればいいのか、自分でもよくわからない。
「お妃様レース、本当にやるんですかね?」
エイドリアンは問うた。話題の切り口を変える。
両親が結婚するきっかけとなったイベントのことはエイドリアンも知っていた。それが平民の娯楽としてお祭り化し、今も続けられていることも聞いている。毎年、その季節になると父や母が嬉しそうに祭りのことを話しているからだ。さすがに参加したり様子を見に行ったりは出来ないが、話を聞くために人を呼んだりはしている。
2人はその季節、いつもに増して仲が良かった。特に父が母にべったりくつっていて離れない。なんだかんだいって母もそんな父を受け入れていた。
両親はナチュラルに仲がいい。子供の目がなかったら、もっといちゃいちゃしていることだろう。たぶん、これでもセーブしている方だ。
「でも、仕方ないと思わないか? 小さい頃からあの2人を見て育つと、結婚へのハードルが凄く上がるだろう?」
アドリアンは自分だけが悪いわけではないと言い訳する。
両親の仲の良い姿を見て育ったから、結婚というのはああいう愛し合った男女がするものだというイメージが出来てしまった。
もちろん、今はそうではないことを知っている。ほとんどの場合、王族や貴族の結婚は契約だ。損得勘定で決まり、子作りは義務だ。子供が生まれた途端、疎遠になる夫婦なんて珍しくもない。結婚して20年経っても未だに新婚当初と変わらない両親の方が普通ではないのだ。
「確かに、自分もあんな風に愛する相手を見つけなければいけないと思うと、ハードルは高いですね」
エイドリアンは頷く。
「そうだろう?」
同意を得て、アドリアンは勢いづいた。
「父様にとっての母様みたいな相手、見つかるわけがないだろう」
そこに冷静なオーレリアンの声が響く。
「あれは特例だ。そんな相手を探そうと思ったら、一生かかるぞ」
エイドリアンを心配する。
「条件を満たした相手の中から、一番好きになれそうな相手を見つけるくらいが無難だ」
説得するように言った。
「わかっています」
エイドリアンは微笑む。
「だから、いろんな人と交流を持って、どんな人なのか知ろうと思ったのです。でもそのせいで、迷惑をかけてしまいました。ごめんなさい」
謝った。自分が社交を頑張りすぎて、ややこしいことになってしまったと反省する。
「いや、エイドリアンは悪くない」
オーレリアンは首を横に振った。
「面倒なことから逃げていた私達が悪いんだ。もう少し、ちゃんとするべきだった」
自分を顧みて、反省する。
「何をしたって、無駄だろ。私にはオーレリアン以上の存在はない。だから正直、相手は誰でもいい。私の家族に害をなさない存在なら」
アドリアンは本音を漏らした。子供みたいに拗ねた顔をする。
見た目は全く似ていないのに、アドリアンは意外と中身はラインハルトに似ていた。
オーレリアンへの執着は、父の母に対する執着ととてもよく似ているとエイドリアンは思っている。
しかし、それを口には出さなかった。
言っていいことと駄目なことくらいはわかる。
「なんにせよ、話の続きは明日だな」
オーレリアンは苦く笑った。
両親が戻ってくることはないのはわかっている。2人に会えるのは明日だと思った。
父の暴走には意外と慣れています。




