想定外
社交の季節が終わりました。
社交の季節が終わると、個人的なお茶会や食事の誘いなどの招待状が届く。
むしろ、そういう個人的に関係を深めたいという誘いは社交の季節が終わってからの方が多かった。社交期間中にこれぞと思う相手を物色し、その後にアタックをかける。
社交の季節は品定めの季節でもあった。
毎年、アドリアンやオーレリアンには大量のお誘いが届く。2人がどんなにパーティでやる気のない態度を見せても、二人が皇太子の息子で、次の皇太子候補であることは変わりない。最有力と見做されているアドリアンへの誘いが一番多いが、オーレリアンにもかなりの数が届いた。オーレリアンにもワンチャンあると思っている貴族は少なくないらしい。
招待状の数で、2人に対する貴族達の評価はだいたいわかる。
だが今年、変化が起こった。
2人を上回る数の招待状がエイドリアンに届く。
「……」
招待状の山を仕分けしていたマリアンヌとアントンは互いに相手の顔を見た。
「まあ、こうなるわよね」
マリアンヌは呟く。
社交期間中、アドリアンとオーレリアンは例年のように近寄るなオーラを出して周りを威圧していた。話しかけられもしないのに下位の者から声をかけることなんて出来るはずがない。結果、ほとんどの貴族は2人を遠巻きに見ていただけで何も出来なかった。
一方、エイドリアンは気さくだ。
パーティを円滑に進めようと、積極的に場の空気を作る。
正直、エイドリアンがそこまで空気が読める青年だとは母親のマリアンヌでさえ思っていなかった。上の2人とは違い、エイドリアンは学校にも通っていない。同じ年頃の貴族との接触はほぼないに等しいはずだ。どこでそんな社交性を身につけたのか、不思議に思う。
エイドリアンには人の気持ちを和ませる才能があるようだ。
どこのパーティでも、エイドリアンの周りには穏やかな空気が流れていた。
そんなわけで、エイドリアンはパーティでは大人気だった。
それは令嬢にだけではない。令息も同様だ。
パーティ会場でエイドリアンはたくさんの友人を作る。
遊びに誘われるのを何回も見かけた。
それを見たマリアンヌは一抹の不安を覚える。息子に友達が出来るのは嬉しいが、喜んでばかりはいられなかった。
そしてそれが現実になる。
「困ったわね」
眉をしかめた。
「どうなさいますか?」
アントンは問う。
「とうもこうも……」
マリアンヌは苦く笑った。自分ひとりではどうしようもない。
「家族会議でも開こうかしら?」
アントンを見た。
「それがよろしいかと思われます」
アントンは頷く。
こうして、夕食後に家族会議が行われることになっ。
エイドリアンがモテモテなのは、別に悪いことではない。
息子がせめてただの貴族だったら、マリアンヌは人気者の息子を単純に自慢に思ったことだろう。
だがエイドリアンは王子だ。
今後、王位継承の問題にいやおうなく巻き込まれることになる。
その時、エイドリアンに人気がありすぎるのは困るのだ。
王位継承は人気投票ではない。
国民の支持も貴族の支持もあってもなくても構わない。だが、ないよりあった方がいいのは事実だ。
貴族の支持がある方が、その後の運営は楽になる。
臣下である貴族に媚びる必要はないが、上手に付き合える方がいいに決まっていた。
次の皇太子はアドリアンにと周りの意思は固まっているのに、エイドリアンが人気者になりすぎるのは困る。
エイドリアンを推す者が現れるとややこしいことになるのは明白だ。
だが、上手に社交をこなしている息子に、それを止めろとも言い難い。
マリアンヌは珍しく葛藤していた。
自分ひとりでは決めかねた。
家族を集めて、会議を開く。自分達夫婦と当事者の3人の息子と5人でテーブルを囲んだ。
マリアンヌは息子達の前にそれぞれに届いた招待状の束を置く。その山が誰のものが一番高いのかは一目瞭然だ。
「さて、アドリアン。この状況をどうしますか?」
マリアンヌは息子に尋ねる。開口一番に質問した。
「何故、私に聞くのですか?」
アドリアンは聞き返す。
「あなた達が自分で招いた結果だからです」
マリアンヌは厳しい顔をした。
「あの……、母様」
エイドリアンが困った顔で口を開く。いたたまれない顔をした。
「貴方は悪くないのよ、エイドリアン」
マリアンヌは優しい笑みを浮かべる。アドリアンに向けるのとはまったく違う顔をした。
「エイドリアンはちゃんと社交をこなし、王族としてやるべきことをやっただけ。やるべきことをやらず、こういう結果を招いたのはアドリアンとオーレリアンの怠慢よ」
2人を責める。
「何か弁明はある?」
冷たい声で問いかけた。
マリアンヌも怒ります。




