社交性
意外な才能が開花します。
息子達3人にエスコートされて、マリアンヌはパーティに出席した。
王子である息子達は当然のように人目を集める。
(ああ、視線が痛い)
心の中でぼやいた。
その他大勢としてたいして注目もされずにひっそりと生きたいマリアンヌにとって、パーティはなかなかの苦行だ。縁を持ちたい貴族達が放っておいてはくれない。
妊娠・出産を繰り返していた頃は逃げる口実があったので面倒な社交は出来るだけ回避してきた。しかしここ数年はそういうわけにもいかない。
年頃の息子達の相手を見つけなければいけないからだ。
マリアンヌだって、息子達の幸せは願っている。家柄や損得だけでなく、できれば相手の人柄も知っておきたかった。
主催者に挨拶をしに行った後、マリアンヌはひっきりなしに令嬢やその親達から挨拶を受けルことになった。
引きつりそうな笑顔で、マリアンヌはそれに対応する。適当に話を合わせて、会話を成立させた。
だがたいていは娘の自慢話で、親以外にはどうでもいい話だ。
一緒に来た息子たちはそうそうにその場から逃げ出す。
アドリアンとオーレリアンは2人一緒にいた。飲み物を手にし、料理を摘んでいる。
料理のテーブルは壁際の方にあった。
話しかけたそうに、令嬢達が遠巻きに2人を取り囲んでいる。それに気づきながら2人とも気づかないふりをしていた。
相手をするつもりはないらしい。
2人だけで何やらひそひそ話し、笑い合っている。
ぶっちゃけ、なかなか感じが悪かった。
一線を引いているのがとてもわかりやすい。
(我が子ながら、酷いな)
心の中で、マリアンヌはぼやいた。
自分が親なら、娘をああいう男には嫁がせたくない。娘を大事にしてもらえるとは思えなかった。
だが実際には、アドリアンとオーレリアンには見合いの話が山のように降ってくる。特にアドリアンには多かった。
賢王の肖像画に年々似てくるアドリアンは、次期皇太子候補として最有力だ。
娘を将来の王妃にと望む親はマリアンヌが考えるよりずっと多いらしい。
(王妃なんて、苦労が多いだけなのに)
マリアンヌは心の中でぼやいた。
そんなことを考えながら、もう1人息子の姿を目で探す。
今日、初めて社交界にデビューしたエイドリアンが心配だった。
一人で困っているのではないかと思う。
すると、なにやら盛り上がっている一画があった。
よく見ると、そこにエイドリアンがいる。輪の中心で、同じくらいの年頃の男女と楽しそうに話していた。
和やかな雰囲気がそこには流れている。
それを作り出しているのは、エイドリアンだ。
穏やかな笑みを浮かべ、周囲のご令嬢をうっとりさせている。
何を話しているのかはわからないが、周りと上手くやっているのは確かなようだ。
心配する必要なんて、なかったらしい。
兄達と違い、他人を拒絶するオーラが全くない。
どうやら、エイドリアンは人付き合いが上手いようだ。
「エイドリアン様、大人気ですね」
マリアンヌの視線がそちらに向けられていることに気づいた夫人がそう言った。
「ええ。今日がデビューなので心配していたのですが、兄達より人付き合いが上手なようです」
マリアンヌは苦笑する。
「アドリアン様とオーレリアン様は何もしなくても令嬢が寄って来るので、少し疎ましく思っているのでは?」
誰かがそんなフォローをしてくれた。
「そうかもしれませんね」
マリアンヌは頷く。
「ここはお母様であるマリアンヌ様がお2人のお相手を決めてしまった方がよろしいのかもしれませんよ」
にこやかに微笑んだ紳士は、だから家の娘をどうかよろしくと言う顔をしていた。
油断していたら、ボールが飛んで来る。
「どうなのでしょうね。素直に母親の言いなりになるような息子達だとは思えませんけど」
マリアンヌは苦笑した。
「本人がいいと思える相手と出会えるのが一番ですよね」
そんなことを言う。
だが内心では、そういう相手が現れるのは難しいと思っていた。
アドリアンの愛情はただオーレリアンにのみ向けられている。
その愛情がどこぞの令嬢に向けられる可能性はかなり低いし、それが向けられたとしても相手は大変だと思う。
アドリアンはわりと執着系だ。オーレリアンはそれを上手に受け止めて、適度に流しているが、そんなのを箱入りのお嬢様たちに出来るとは思えない。
(割り切った関係の方が、アドリアンと付き合うのは正解な気がする)
王族に恋愛結婚が必要かと問われれば、必ずしもそうではないとマリアンヌは思っていた。だから、恋愛に夢を見ているようなお嬢さんたちをいただくわけにはいかないと思っている。
(うちの王子様たちは女の子が夢見るお話の中の王子様たちとは違うのよね)
そう思ってきたが、エイドリアンは違うのかもしれない。ちゃんと社交も出来るようだ。
(エイドリアンは物語の中の王子様っぽい)
意外なところでエイドリアンの才能を知る。何でも兄たちの真似をしていた弟が兄たちより優れているところも持っていた。
得意不得意は誰にでもあります。




