女の子
ごく普通の女の子です。
昼過ぎ、マリアンヌは動けるようになった。昼食のために食堂に向かう。
「母様。具合、大丈夫?」
娘のメリーアンがさっと寄ってきた。マリアンヌの手を握る。
マリアンヌはきゅんとした。
(こういうところ、本当に上手い)
我が娘ながら、感心する。計算なのか天然なのか、わからないがなかなかあざとい。
メリーアンはラインハルト似だ。お妃様レースで、女装していたラインハルトを髣髴させる。
9歳ですでに美少女として完成している。
自分の娘とは思えないほど、普通にちゃんと王族をしていた。ドレスや宝石が大好きで、ちょっとマセている。兄弟は男ばかりなので、小さな頃から遊び相手はメイドや年上の従姉妹たちだ。フェンディの娘達が、年の離れた従姉妹であるメリーアンを可愛がり、よく遊び相手をしてくれる。その影響か、ごくごく普通の女の子に育っていた。
家にいる時はマリアンヌにべったりくっついていて、男の子とは物心ついた頃からはあまり遊ばなくなった。女の子としての意識が高いように見える。
小さくても女だなとマリアンヌはある意味、感心していた。
「ありがとう。大丈夫よ」
マリアンヌはメリーアンの手を握り返す。にっこり笑った。
「午後から、母様は何をするの?」
メリーアンは予定を聞く。
「明日から社交期間が始まるから、お茶会とパーティのドレスを選ばないとならないわね」
マリアンヌは答えた。
正直、面倒でしかない。だが、避けられないことだ。
午前中に終わらせてしまいたかったが、動けなかったので午後になってしまう。
さっさと決めて、終わらせようと思っていた。
「それ、見ていてもいい?」
メリーアンは聞く。少し遠慮がちなところがいじらしい。
(これが演技なのか本気なのかは、母親のわたしにもわからない)
マリアンヌは悩んだ。息子と違い、娘は読めない。
「構わないけど、見ていて楽しいの?」
思わず、聞いた。マリアンヌは少しも楽しくない。
正直、毎年面倒に思っていた。本音ではどうでもいいと思いながらいつもドレスを選んでいる。
マリアンヌも女なので、綺麗なドレスにテンションが上がった時期も確かにあった。だがそんなのは一時のことだ。締め付けがきついので、出来ることならパーティのドレスは着たくない。だが、王族には一応、ファッションリーダー的な役割が求められていた。毎年、いくつかドレスを新調しなければいけない。それ以外のドレスもリメイクした。去年のドレスをそのまま着るなんてことは許される雰囲気ではない。
そこまでいくと、ほとんど義務だ。楽しむ余裕はない。
着ていくドレス選びも、自分の着たいものを選ぶのではなく、その時のシュチュエーションに合うものを選択するだけだ。
「うん。メリーも早くパーティに行きたい」
にこやかにメリーアンは微笑んだ。
「……」
思いもしない言葉が返ってきて、マリアンヌは黙り込む。
社交が楽しみなんて、凄いと感心した。
「びっくりするくらい、ちゃんと女の子ですね」
一歩後ろを歩いているメアリが独り言のように呟く。
「わたしの娘とは思えないわよね」
マリアンヌは苦笑した。
「本当に」
しみじみとメアリは頷く。
「少しは否定してよ」
マリアンヌは口を尖らした。拗ねた顔をする。だが本気で怒っているわけではなかった。
「せめてメリーアンくらいは、好きになった人と結婚させてあげたいわね」
母としてそう思う。
王族の結婚なんて普通の貴族以上に打算的だ。恋愛感情なんてものはそこにはない。だが、ドレスや宝石が大好きな普通の女の子は恋にも憧れを持っているだろう。
いつか王子様が現れる的な夢を抱いているに違いない。
その夢を壊したくなかった。
「兄弟はたくさんいるのですから、一人くらい、打算がない結婚をしても大丈夫じゃないですか?」
メアリは真顔で答える。不可能ではないと思った。
「……それもそうね」
マリアンヌは頷く。
「息子達の嫁選びは気が重いけど、娘の夫選びはちょっと楽しいかもしれない」
少なくとも、申し訳ない気分になることはないだろう。
「子供連れで参加可能なお茶会とか、メリーアンも連れて行くことにしようかしら」
ちらりと娘を見る。
出会いのチャンスはたくさんあった方がいいと思った。
独り言のように呟いたマリアンヌにメアリは驚いた顔をする。
「なんか、すごく母親っぽいですね」
失礼なことを言った。
「わたしだって、普通に母親よ」
マリアンヌは反論する。
「そうですか?」
メアリは小さく首を傾げた。
女の子は小さくても女の子なのでいがいとしっかりしています。




