閑話: 招待状
予想外の反応があります。
社交のシーズン、普通の王族なら招待状が沢山届く。社交に熱心な妃は少なくなかった。社交の場が妃の晴れ舞台だったりする。
だが、マリアンヌは極端に社交を敬遠していた。
どうしても必要なのにしか出ない。
そういうのを何年も繰り返すと、最初から招待状が届かなくなった。
そもそも、マリアンヌの噂はあまり良くない。悪女と評判の皇太子妃と積極的に縁を作りたがる貴族は多くなかった。
ラインハルトもそれに関しては何も言わない。
自分の目の届かないところにマリアンヌを行かせるのも不安といえば不安だ。
普通の貴族と違い王族を招待するのは少しばかりハードルが高いこともあり、マリアンヌの所に届く招待状は例年、少ない。
マリアンヌとしては清々していたのだが、アドリアンのことが噂になると、それが変った。
やたらとパーティの招待状が届くようになる。
目的はわかっていた。
婚約者がいない息子達に、自分の娘を紹介したいらしい。
「わかりやすくて、ある意味、清々しいですね」
マリアンヌは苦笑した。
「面倒なので、全部まとめて欠席とかは駄目ですかね?」
真顔でラインハルトに相談する。
「その台詞が冗談でないことが私は怖いよ」
ラインハルトは苦笑した。
(やっぱり、駄目か)
心の中でマリアンヌはぼやく。
パーティに行くのも気が重いが、それ以上に母と娘にセットで突撃されるのが面倒くさい。
ここぞとばかりにアピールされても困るだけだ。
(12歳の子供に婚約者って。でもこの世界では、別に早いわけではないのよね)
マリアンヌはやれやれと思う。
まだ12歳だから……と断りを口に出来ないのが辛いところだ。早い子だと、8歳とか9歳とかで婚約が決まる。爵位が高ければ高いほど、早めだ。
そういう意味で言えば、アドリアンやオーレリアンだけでなく、エイドリアンに話が来る可能性だってある。
「ラインハルト様はどう考えています?」
マリアンヌは尋ねた。そういう話は今までしたことがない。
「自分が19歳まで婚約もしないでいたのに、息子達にだけ早く婚約者を決めろというつもりはないよ」
もっともな言葉が返ってきた。
「それもそうですね」
マリアンヌは納得する。
「じゃあ……」
その手の話は全部見送りましょうと言いかけたマリアンヌの声をラインハルトは遮る。
「でも、全く考えなくていいとも思ってはいない」
なんとも微妙な顔をした。
「というと?」
マリアンヌは先を促す。
「パーティの招待くらいなら可愛いものだ。私の所には婚約の打診ががんがん来ているよ」
ラインハルトはため息をついた。
「初耳です」
マリアンヌは驚く。
「とりあえず全て、断わっている」
ラインハルトは困った顔をした。
最近、どこに行ってもアドリアンとオーレリアンの事で話し掛けられる。二人は寄宿学校に行って王都を離れていたこともあり、情報があまりに少なかった。
何でもいいからと知りたがられる。
マリアンヌに届いている招待状も、見合いをセッティングしたいのと、二人の情報を知りたいのの両方だろう。
「この状況は、考えていませんでした」
マリアンヌはやれやれという顔をした。
「いっそ、招待状をくれた方々を一気に全部招待して、パーティを開き、一度に終わらせてしまいますか」
まんざら冗談でもなさそうなことを言う。
「意外と悪くない案じゃないですか?」
少し考え込んで、呟いた。
「悪くはないが、面倒そうだ」
ラインハルトはうんざりする。
一人や二人でも厄介なのに、それがまとめてやってくるのを想像した。
「でも、個別に対応するより面倒くさくはないんじゃないですか?」
マリアンヌは真っ直ぐ、ラインハルトの目を見た。
「結局、情報が不足しているから、それを求めてハイエナのように群がってくるのです。自分で情報収集する機会を与えてしまいましょう」
面倒くさくて投げ出したいのを、マリアンヌは隠しもしない。
「……考えてみよう」
ラインハルトは返事をした。
勝手に選んでと思っていますが、勝手に選ばれるのも困るとも思っています。




