噂 2
何も説明されないと不安です。
シエルはアルフレットにお茶を出した。
向かい合うように座っていたはずなのに、アルフレットは隣に移動してくる。
「何?」
シエルは問いかけた。
「手紙、読まないのか?」
アルフレットは尋ねる。シエルに渡したそれが気になるようだ。
手紙はシエルの目の前、テーブルの隅に置かれている。
アルフレットが持って来た手紙は配達されて届くいつもの他の手紙と違い、分厚かった。
普段の手紙は第三者に渡る可能性を考慮して、用件のみが簡潔に書かれてある。それについての説明は一切、なかった。
だが、アルフレットが胸のポケットに忍ばせ、肌身離さず持って来た手紙は他人の手にわたる可能性が低い。そこにはマリアンヌもいろいろ書くことができた。
今回のことについての説明もあるだろう。
アルフレットはそれが気になるようだ。
「読むけど、勝手に覗き込むな」
シエルは嫌がる。
「そんな無礼なことはしない」
アルフレットは憮然とした。人の手紙を横から盗み見るような人間だと思われたことに、怒る。
名誉を重んじるところが彼にはあった。
そういうところ、アルフレットはとても貴族らしい。
「悪かった」
シエルは素直に謝った。
「読むから、少し離れて」
くっついてくるアルフレットの胸を押す。
アルフレットは素直に少し離れた。
シエルはペーパーナイフで手紙を開封する。
便箋が何枚も入っていた。
開くと、懐かしい姉の字が目に入る。
それだけで、シエルは口元が緩んでしまった。
温かな気持ちになる。
「……」
シエルは無言で手紙を読み進めた。
肖像画を展示したことについて、説明が書いてある。その思惑には納得できるところもあった。
(そう上手くいくだろうか?)
だが、楽観的過ぎる気もする。しかし現実はほぼ姉の思惑通りに動いていた。
最近耳にした噂をシエルは思い出す。
そこには誰という特定はなかった。だが、賢王が王族として生まれ変わったことを人々が認識しているように感じる。
(賢王の生まれ変わりは、王族の中から出ないとややこしいことになる)
シエルはしみじみそう思う。
肖像画に似ているから、なんていう理由で王族でもない自分が担ぎ上げられるのは迷惑だ。
混乱しか生まないだろう。
だが、それが皇太子の息子なら話は違う。次の次の王に彼がなれば丸く収まる。
(そのためにも、肖像画に似ている自分は建国祭にいない方がいい)
シエル自身がそう感じた。
来るなと言われたことを納得する。
(でも、寂しい)
心の中で、ぼやいた。
姉に会いたい。
「何て書いてあった?」
アルフレットは尋ねた。
「アルフレットが予想している通りだよ」
シエルは答える。
「聞かなくても、だいたいわかっているんでしょう?」
問いかけた。
「まあ、転生会のことを知っていて、あの肖像画を見たらだいたいはな」
アルフレットは頷く。
「そんなに似ていた?」
シエルは尋ねた。その肖像画を見たことはない。
「年齢的に、アドリアン様よりまだシエルの方が似ているな。まあそれも、成長していけばアドリアン様の方が似てくるだろうが」
アルフレットは答える。
「へー。肖像画は見てみたかったな」
シエルは少し残念に思った。
そのシエルの頭をよしよしとアルフレットの手が撫でる。
「何?」
シエルは苦く笑った。
「別に」
アルフレットは答えない。だが、撫で続ける手は止めなかった。
「そういうところ、腹立つ」
シエルは軽くアルフレットを睨む。
「八つ当たりするな」
アルフレットは笑った。
とっても仲良しです。




