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噂が流れています。





 王都から遠く離れたランスローには噂が届くのも遅い。

 シエルがその噂を耳にしたのは、建国祭から1週間も経った後だった。


 “賢王様の生まれ変わりが王族の中にいるらしい”


 最終的に、噂はそんな感じに落ち着いていた。それが誰かまでははっきりしていない。どうしてそういう噂になったのかも不明だ。

 噂というものは尾ひれがつくものだが、どちらかと言うと今回はいろんなものがそぎ落とされて、核だけ残ったという感じがした。

 そしてそんな噂が広まる頃、マルクスがアルフレットを従えて王都から戻ってくる。

 建国祭は国の大切な祝い事だ。

 普段は地方にいるマルクスやフェンディも王都に戻り、行事に参加する。

 市民に謁見の儀があるように、貴族も王族に拝謁する機会があった。

 堂々と姉の会える貴重な機会なので、いつもはシエルも父と共にそれに参加する。この数年、マリアンヌがランスローに帰ることは減っていた。妊婦に馬車での長距離移動は無理なので、次々と子供を身篭ったマリアンヌは帰れずにいる。

 その代わり、シエルの方が王都を訪れていた。こっそりと離宮に招かれる。

 建国祭はそんな姉達の顔を見られるチャンスの一つだ。たが今回はランスローにいて欲しいと手紙が来る。

 理由は書かれていなかった。だが、それが必要なことなのはわかる。

 シエルは1人、領地で留守番することになった。

 正直、いらいらが募る。

 マリアンヌの手紙はいつも用件だけが簡潔に書かれていた。第三者の目に触れることを考慮して、余計なことや本当に大切なことは書かない。

 王都で何が起こっているのか、知るには父やアルフレットが帰ってくるのを待つしかなかった。

 戻ってくるのを手ぐすね引いて待っていると、父より先にアルフレットが帰ってくる。

 マルクスは建国祭が終わるとさっさと王都を出たようだ。反対に、父はしばらく大公家でのんびりしてから帰るつもりだろう。

 伯父と旧交を温めて以来、父は王都に行くとなかなか帰らない。2人で楽しく酒を飲み交わしているようだ。

 そのことにもなんだか苛ついた。






「お帰り」


 帰ってきたアルフレットを出迎えると、アルフレットは苦く笑った。


「何を怒っているんだ?」


 問われる。

 アルフレットは元々モテていたが、ここ数年、ますます令嬢人気が高い。王都を離れ、殺伐とした空気から解放されたせいかすっかり雰囲気が落ち着いた。あちこちから猛アタックを受けても可笑しくないのだが、そうでもないのには理由がある。対外的にはシエルとそういう関係だということになっているからだ。シエルも同様の理由で、令嬢達のアタックからは逃れている。

 元々結婚する気がないので、シエルとしてはちょうどいい。


「別に怒っていない」


 シエルは答えた。その態度がひどく子供染みたことは自覚しているが、アルフレットにはついつい甘えてしまう。

 何をしても許してもらえるのが本能的にわかっていた。


「一人で留守番させられたのが寂しかったのかい? ハニー」


 アルフレットがからかう。

 じろりと無言でシエルはアルフレットを睨んだ。


「お使いしてあげたんだから、そんな顔をしないで欲しいな」


 アルフレットは懐から手紙を取り出す。それが誰からのものか、聞かなくてもシエルにはわかった。


「ありがとう」


 礼と共に、手を差し出す。

 そんなシエルをアルフレットはまじまじと眺めた。


「やっぱり、似ているね」


 そんなことを言う。


「今回は留守番していて、正解だよ」


 そう続けた。


「何が?」


 シエルは首を傾げる。


「王宮の通路に賢王の肖像画が飾ってあった。……正確には、歴代の国王陛下の肖像画が並んでいたんだけど」


 そこまで聞いて、シエルは理解した。

 噂話を思い出す。


「賢王の生まれ変わりだと噂されているのはアドリアンのことか」


 呟いた。

 ランスローから出るなと言われた意味を理解する。

 姉の練った計画を察した。









ほぼ思惑通りです。

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