守る人
マリアンヌの呼び出しは誰も知りません。
お茶の時間、アドリアンとオーレリアンは離宮に戻った。
出迎えてくれたアントンが少し奇妙な顔をする。だが、何も言わなかった。
2人は母の姿がないことに気づく。
「母様は?」
アドリアンはアントンに尋ねた。
「国王陛下に招かれて、お茶を飲みに行かれました」
アントンは答える。
「陛下に?」
オーレリアンは眉をしかめた。母を呼んだのに、自分達には声が掛からなかったことを不思議に思う。
アントンが奇妙な顔をした理由はそれだと思った。
「……」
「……」
アドリアンとオーレリアンは顔を見合す。同じことを考えていた。
「嫌な予感しかしないのは、気のせいかな?」
アドリアンは苦く笑う。
「気のせいじゃないね」
オーレリアンはため息を吐いた。
朝、出かける時はそんな話はなかった。おそらく、突然の呼び出しだったのだろう。父も知らない気がした。
「そんなに心配しなくても、大丈夫ですよ」
アントンが囁く。お茶の用意をメイドに指示した。
「なんでそんなに落ち着いていられるんだ?」
アドリアンは不思議そうにアントンを見る。
アントンは小さく笑った。
「マリアンヌ様ですからね」
そう言う。
「ご自分でなんとかしてしまう方でしょう?」
少なからず困った顔をした。
「……」
「……」
アドリアンとオーレリアンは沈黙する。何も言えなかった。いろんな意味で、心当たりがありすぎる。
「確かに、自分でどうにかしてしまうだろうね」
オーレリアンは苦笑した。
母が誰かに頼り、縋ったところなんて見たことがない。手を貸してもらうことはあっても、自分のことは何一つ他人任せにしない人だ。
「世の中の女性はみんなああいう感じなのだと、小さい頃は思っていたな」
アドリアンは遠い目をする。自分にとって、母が基準だった。それが普通ではないと気づいたのは、寄宿学校に入ってからだろう。大抵の場合、女性は守ってもらうことを好むらしい。自立した強い女性であっても、守ろうとする男性の姿にときめくものらしい。
でも母は守られるより守る方を頑張る人だ。
「それは、大変な誤解ですね」
アントンはしれっと失礼なことを言う。同情するようにアドリアンとオーレリアンを見た。
「はははっ」
アドリアンとオーレリアンは声を上げて笑う。確かに誤解だなと思った。
お茶の時間を終えてアドリアンとオーレリアンは仕事に戻った。国王は渋い顔をして、執務室の椅子に座っている。
アドリアンとオーレリアンを見ると、何とも微妙な顔をした。
母と何かあったのだと、2人は察する。
だが、尋ねるつもりはなかった。聞いていい話なら、母と共に自分達もお茶に招かれるだろう。
声が掛からなかったのは、そういうことなのだと思った。
巻き込まれるだけ、損する気もする。
2人は素知らぬ顔で仕事を始めた。
相変わらず、任される仕事は雑用だ。12歳の少年にたいした仕事は廻ってこない。黙々と、与えられた事務仕事をこなしていると、気配を感じた。
振り返ると、国王がアドリアンとオーレリアンの後ろに立っている。
「陛下?」
アドリアンは首を傾げた。
オーレリアンも困った顔をする。
「さっき、マリアンヌと話したよ」
唐突に、国王はそう言った。
「そうですか」
相槌の打ちようがなくて、オーレリアンはただ頷く。
「おまえたちに困ったことがあったら、手を貸してやってくれと頼まれた」
母らしいと思いながら、アドリアンも頷いた。
「孫だからと贔屓にしたら、アドリアンとオーレリアンが居辛い思いをするのではないかと言ったら、贔屓したってしなくたって、贔屓しているって言われるのは同じだと言い返された」
国王は苦く笑う。
「孫なんだから可愛いのは当然だし、何をしても贔屓していると傍目には映る。どうせ陰口を叩かれるなら、本当に贔屓してくれとはっきり言われた」
アドリアンとオーレリアンはぷっと噴出した。
「それは何とも母らしいですね」
オーレリアンは笑う。
「私もそう思うよ」
国王はにこっと笑った。
「だから、これからはわかりやすく贔屓しようと思う。お前達は私の孫で、いずれ私やラインハルトの跡を継ぐだろう。普通の側近と同じように扱うのが、そもそも無理なのかもしれないね」
国王の言葉に、アドリアンはオーレリアンを、オーレリアンはアドリアンを見る。
「でも、しばらくは事務仕事で大丈夫です」
オーレリアンは言った。
「仕事を覚えるのには、ちょうどいいので」
小さく微笑む。
「わかった。では、そうしよう」
国王は頷いた。
どうせ文句を言われるなら、贔屓して欲しいのです。
別の話も地味に更新しています。
テンプレ目指した悪役令嬢もの? Nコード:N2773GU
アドレスはhttps://ncode.syosetu.com/n2773gu/ と
転生猫ものです。^^:
https://ncode.syosetu.com/n4801gu/ Nコードは N4801GUです。




