謁見4
市民はイベントとして楽しんでいます。
人々は長い列を作った。王宮の外まで謁見の列は続く。
「いつもにまして凄いな」
新しく並ぼうとしていた男は驚いた顔をした。
この国では案外、王族の人気が高い。国が豊かで安定しているので、民の不満は少なかった。それはそのまま統治者である国王の人気に繋がる。
「みんな肖像画が見たいんだよ」
恰幅のいい女性が笑った。男とは顔見知りらしい。
「どの王様もカッコイイらしいからね」
そんなことを言った。
「とくに賢王様が素敵だと聞いたわ」
若い女性が少し頬を赤らめる。午前中に並んだ友人からそういう話を聞いていた。
「それは楽しみだねぇ」
恰幅のいい女性ががはがはと笑う。
そんなことを話しながら、列はじりじりと進んでいく。だが建物の入口まではまだまだ遠かった。
王宮の中に入ると、大広間までは真っ直ぐに廊下が伸びていた。廊下は真ん中をロープのようなもので区切られていて、左側を通って進むようになっている。入場列である左側は人が詰まっているが、退場する人が通る反対側は空いていた。何年か前から、こんな風に廊下が区切られるようになり、人の出入りはずっとスムーズになる。
肖像画はその反対側の方に飾ってあった。人がまばらにしかいないのでみんなが見やすい。たまに絵の前で立ち止まり、じっくりと見ていく人もいるがそれほど邪魔にはならなかった。
「賢王様の肖像画ってどれ?」
誰かの問う声が聞こえる。
肖像画の下にはラベルがついているが、文字が読めない人も多かった。
読める人がこれだと教えてやる。
肖像画に描かれた王の年齢は様々だ。若い頃の姿もあれば、壮年のヤツもある。だがどの絵も威厳があるように描かれてあった。
「確かに素敵ね」
うっとりした声が響く。
賢王の肖像画は二十代前半の頃だ。背筋を伸ばし、両足を軽く開いて立っている。凛としたその瞳は真っ直ぐに前を見据えていた。
国の改革に挑む、意思の強さがそこに宿っている。
たいていの女性はうっとりとその絵に見惚れた。
王はかなりの美青年だ。綺麗な顔立ちはそれだけで鑑賞する価値がある。
周りの男性はそんな女性達に少しばかり苦笑していた。だが、何も言わない。
他にも肖像画は飾られているが、人々の視線は圧倒的に賢王の肖像画に向けられていた。
列に並ぶ退屈な待ち時間が、楽しい時間に変わる。
人々は一緒に来た仲間やたまたま居合わせた見ず知らずの相手と、あれこれ話し合っていた。
午後は皇太子一家が大広間に登場した。
例年は夫婦2人だが、今年は息子達がそこに加わっている。いつもは大人だけなので、少年たちの姿は目を引いた。特にその内の1人、アドリアンはとても目立つ。ほとんどの視線は彼に注がれていた。
廊下に飾ってある肖像画の一つに、少年はとても似ている。
それに気づいた市民はざわざわした。
「あれは誰?」
後ろの方でそんな会話が交わされる。さすがに前の方に並ぶ人々は余計な口はきかずに黙っていた。しかし、後ろにいる人たちは遠慮ない。自分達の声なんて、檀の上まで聞こえるわけがないと思っていた。
「皇太子のご子息だろう。午前中の国王夫妻の時にも同席していたらしいぞ。今年から国王様の側近として仕事を始めたらしい」
正確に情報が伝わっているのは、出入り口や受付にいる騎士達にアドリアンとオーレリアンのことを事前に告知しているからだ。
聞かれたら、正確に答えるように指示が出ている。もちろん、それは2人に関してだけではない。登壇する王族全員についてだ。
そのため、曖昧ではないちゃんとした情報が出回る。
「国王陛下が孫を同席させるなんて初めてじゃない? 皇太子様の次はあの2人のどちらかということなのかしら?」
誰かがそんなことを呟いた。
王族の人事など市民には全く関係がない。だが、関係がないからこそ楽しかった。気楽にあれこれ想像する。
「もしそうなら、わたしはあっちの子がいいな」
アドリアンをこっそり指差して、女性は呟いた。
「賢王様に似ているんだから、賢い王になるんじゃないかしら?」
何の根拠もないことを言う。だがその程度の噂話の方が、案外、市民の心を掴む。
「そうね。素敵な国王様になるでしょうね」
そんな風に盛り上がった。
女性の会話を聞いて、他の人も同じようなことを思う。そしてそれを家族だったり知り合いだったりに王宮から戻ってから話した。
それは噂になり、あっという間に広がる。
アドリアンが賢王に似ていることは貴族の間でも囁かれるようになった。
それは王宮の中にも届く。
マリアンヌはそれを耳にして、満足そうな顔をした。
目論見どおりです。
そろそろこちらの話が終わりそうなので、別の話を地味に更新しています。
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今度こそテンプレな転生ものを目指してます。引き続き、楽しんでいただけたら幸いです。




