謁見3
どことなく漂う茶番臭。
壇上にマリアンヌたちは登場した。
大広間には例年以上に大勢の人が詰めかけている。それを見るとなかなか複雑な気分になった。
(やっぱり、文化祭の劇に出ている気分)
大勢の人の視線を感じて、そんなことを思う。
自分ではない自分を演じている気がした。
皇太子妃という今の自分の立場が、その他大勢の自分にはとても相応しくなく感じる。
ある意味、茶番だ。
(田舎で気楽に暮らすつもりだったのにな)
そのために準備し、努力したつもりでいた。なのに何故か今、自分は王都で王宮に住んでいる。
(人生は儘ならない)
そんなことを思った。皇太子妃として、ラインハルトの隣に並び立ちたい令嬢はたくさんいることを知っている。けれどマリアンヌはそれを望んだわけではなかった。
しかし、そんな感慨に暢気にふけっている場合ではない。
皇太子一家を見る人々の間にざわめきのように何かが走った。
マリアンヌはそれを見逃さない。
人々の目の多くはまだ幼いアドリアンに向けられていた。
飾られていた肖像画に似ていることに気づいた市民が一定数いるらしい。
前方の方ではさすがにそんな噂話を口にしたりはしないが、後ろの方ではどうせ聞こえないだろうと、こそこそと隣の人と話している姿が散見出来た。
(話の内容まで聞こえないのが残念)
マリアンヌはそう思う。
後で、メアリあたりにどんな噂が流れているのか調べてもらおうと決めた。
メアリは相変わらず有能だ。
年月を経て、女性への擬態がますます上手くなっている。
男性であることを知っているマリアンヌさえ、メアリが男の娘であることを時々忘れることがあった。うっかり、着替えを手伝ってもらいそうになる。
市民の代表から挨拶を受け、ラインハルトがそれに答えた。
マリアンヌと子供達はただそこに立っているだけなので実は暇だ。
(ラインハルト様とアドリアンに視線が集中しているから、いつもより突き刺さるような視線が少なくて助かる)
マリアンヌは心の中で、小さく笑う。
例年、注がれる視線は善意だけではない。中には当然、嫉妬や僻みだってあった。
気持ちはわからないでもない。
貴族や王族が何故偉いのか、市民の中には納得出来ない人間がいるのは当然だろう。
ただ、そこに生れ落ちただけなのだから。
思うだけなら何を考えようと自由だ。それを行動に移したりしなければ止めるつもりはない。
そんなことを考えながら、集まった市民達の服装をマリアンヌはチェックする。
それはもちろん、晴れ着だ。普段着はもっと質を落とした服を着ているだろう。だがそれを加味しても、ある程度は生活レベルが窺える。
人々の経済状況はいい意味で安定していた。
国内は平和で、他国との関係はほぼ断っているので良くも悪くもない。他国の情勢に国内が振り回されることはなかった。
鎖国状態があまりいいことではないのはわかっている。だが、安定した状態を変えてまで、無理に他国と付き合う必要もないとマリアンヌは考えていた。
世界平和云々より、自国の国民の幸せが大事だ。
(わたしの手は二つしかないから、全ては救えない。この国の国民だけで手一杯だ。自分の国のことは自分達で考え欲しい)
冷たい意見だが、そう思う。
(江戸時代みたいに一部にだけ海外との窓口を作り、必要なものをやりとりするというのが一番いいんじゃないかな)
つらつらと取りとめないことを考えた。だがそれを誰かに提案したりするつもりはマリアンヌにはない。
この国で、女性が政治に介入する機会はなかった。
その活躍の場を作ろうという気持ちもマリアンヌにはない。
(男女雇用均等法がいいのか悪いのか、未だにわたしにはわからないしね)
そんな法律があったって、男女の立場は均等になんてならなかった。女性が進出する手段は出来たかもしれないが、飛び込んだ先で苦労する姿しか見た覚えがない。口では平等だといいながら、意識の中に不平等は残っている。法律では人の気持ちは変えられない。そもそも、この世に平等とか公平なんてものは存在しないとマリアンヌは思っていた。世の中はいつだって不公平で不平等で不条理だ。
それを公平にしようと努力する人は前世にたくさんいたが、平等が実現した国は一つも見たことがない。
格差というものはどうやったって生まれるのだ。それなら、その最低ラインを人々が飢えないところまで引き上げるしかない。
今の王国はそれが出来ている気がしていた。
時間が来て、マリアンヌたちは退室する。深々と頭を下げる市民に見送られた。
出来ないことを努力するより、出来る範囲で出来ることから実現する主義です。遠くの理想より明日の現実。
地震で大変ですが、そろそろ終わりそうなので更新は頑張りたい。><
お礼を書く機会を完全に逸しましたが、ブクマも評価も大変、ありがたいです。m__m




