謁見2
なかなか先に進まなくてすみません。
午後になり、国王夫妻と皇太子夫妻は交代した。
昼食を終えたマリアンヌとラインハルトはアドリアンたちのいる控え室に入る。
息子達は朝とは違うドレス姿の母をまじまじと見た。
「ちょっと、地味じゃないですか?」
王妃達に比べて、だいぶシックな装いが気になる。宝飾品は必要最低限という感じた。かなり少ない。もともとあまり身につけない人だが、王妃達に比べると違いが際立つ。
「そう? 毎年こんな感じよ」
マリアンヌは自分の姿を見た。
「ね?」
ラインハルトに同意を求める。
「派手なのは嫌だそうだよ」
ラインハルトは苦笑した。
マリアンヌのドレスに対し、地味ではないかと意見を言ったことは何回かある。だが、王妃たちより控え目でちょうどいいのだといつも反論された。
言っても無駄なのは悟ったので、もう何も言わない。
「だって、恥ずかしいもの」
マリアンヌは口を尖らせた。
大広間は少し大きめの体育館くらいの広さがある。高い壇上から見下ろすと、校内発表会で劇でも演じているような気分になった。
そのせいか、派手なドレスを着るのは気恥ずかしい。頑張った感が浅ましく思えた。
それに、派手にごたごたと装飾品をつける王族を見た市民感情も気になる。
自分が市民だったら、自分達の税金で暮らしている人たちが散財していたら腹が立つだろう。
実際には王族の予算は国の予算とは勘定は別だ。税金から出ているわけでもない。しかし、そんなことを知る人間は少ない。
誤解で、市民の反感を買いたくなかった。
マリアンヌは市民革命が起こって、処刑されるのを警戒している。
マリーアントワネットになるつもりはなかった。
幸い国は豊かで飢えている人はいないので、そんなことにはならないと思う。だが、用心するのにこしたことはないだろう。
「ねえ。アドリアンとオーレリアンは王族や貴族はどうして偉いのだと思う?」
ふと思いついて、マリアンヌは質問した。
「質問の意図がわかりません」
オーレリアンは首を傾げる。
「王族や貴族は地位や権力を持っているでしょう? それはどうしてなのかという質問よ」
マリアンヌは説明する。だが、オーレリアンはますます困惑し、アドリアンは不思議な顔をした。
「母様はわかるの?」
逆に聞く。
「そうね」
マリアンヌは頷いた。
「どうしてですか?」
アドリアンは聞く。
「たまたま、王族や貴族に生まれたからよ」
マリアンヌは答えた。
「……」
「……」
「……」
奇妙な沈黙が控え室に流れる。
「何を言っているのか、わかりません」
オーレリアンは静かに首を横に振った。
マリアンヌはふっと笑う。
「つまり、たまたまそこに生まれただけで、王族も貴族も平民も本当は何も違いがないのよ」
言い切った。
「王族も貴族も、特別な力を持っているわけではない。たまたまそこに生まれただけだから、本当は偉くもなんともないと思わない?」
その言葉に、ラインハルトは眉をしかめる。
「マリアンヌ」
険しい声で妻を呼んだ。
それに大丈夫と唇の形だけでマリアンヌは答える。
「だから、生まれた後にわたしたちは努力しなければならない。王族は王族に相応しい人間になれるよう。貴族は貴族にふさわしくなれるよう。良い施政者になり、民のために尽くさなければならない。そうやって初めて、王族や貴族は偉いのだと人から敬われる」
にこりと笑った。
「王族として相応しい人になれるように努力をしなさい。民を愛し、国を愛しなさい。民がいて、民に認められて、わたしたちははじめて王族になれるのです。それを忘れないでね」
囁く。
そんなマリアンヌを後ろからラインハルトは抱きしめた。
「何?」
突然の抱擁にマリアンヌ驚く。
「マリアンヌを選んだ自分を誉めたくなっただけです」
ラインハルトは小さく笑った。
そこに生まれたから偉いのではなく、その地位に相応しい人間になろうと努力するから偉いのです。




