謁見 1
子供達には王妃達との交流はほぼありません。
アドリアンとオーレリアンは朝から緊張していた。初めて、建国祭に参加する。
大広間では玉座に国王が座り、その両隣に第一王妃と第二王妃が立つことになっていた。アドリアンとオーレリアンはその王妃たちのさらに隣に立つ。
第一王妃の隣にはアドリアンが、第二王妃の隣にはオーレリアンがと、立ち位置はきっちり指定されていた。
いつもは国王と王妃だけなので、新たにアドリアンたちがそこに加わることには一悶着ある。
皇太子夫妻の時に一緒なのはともかく、国王夫妻と並び立つのは可笑しいのではないかという意見が出た。孫なら、アドリアンたちのほかにもいる。第一王子にも第二王子にも息子はいた。尤も、そのどちらも王宮を離れている。
尤もな意見だが、国王はそれでもアドリアンたちを謁見に参加されることを押し切った。
アドリアンとオーレリアンには国民に顔を見せる必要があるとはっきりと言う。それはラインハルトの次はアドリアンかオーレリアンのどちらかだということを示す発言に等しかった。
貴族達に衝撃が走る。
些細なことに拘っている場合ではなくなった。どちらにつくか早急に方針を決めなければならなくなる。
それどころではなくなったので、謁見に参加することへの反対意見はなくなった。
アドリアンとオーレリアンは謁見に参加することに決まる。
大広間での市民の入れ替わりが終わるまで、王族は控え室で休むことになっていた。
控え室にはお茶とお菓子が用意してある。
その控え室にまで、ざわざわとした広間の賑わいが届いていた。今年は明らかに人数が多い。
「いつもよりたくさん人が来ていますね」
第一王妃に話しかけられ、アドリアンは少し戸惑った。
普段、ほとんど接点はない。
「そうですね。肖像画の件も噂になっているようです」
アドリアンは当たり障りなく答えた。今年、人が多い理由はみんなが知っている。
「あの肖像画、皇太子の発案だそうですね」
第一王妃は朗らかに笑った。どちらかというと地味目の人なので、アドリアンは好印象を持っている。
自分の母に近い感じがした。
「マリアンヌですか?」
少し声を潜めて、第一王妃は問う。
「何故、そう思うのですか?」
答えず、アドリアンは問い返した。質問の真意が掴めない。
「絵の下に説明を付けたり、やることがマリアンヌっぽい気がします」
第一王妃は答えた。悪気のない顔で微笑む。
質問に他意はなかった。それはアドリアンも感じ取る。
「ああいうの、母は好きなようです」
どちらとも取れるような言葉をアドリアンは口にした。はっきりとは答えない。
「アドリアンはしっかりしていますね」
第一王妃は誉めた。
「……ありがとうございます」
少し迷って、アドリアンは礼を言う。嫌味ではないと思った。
「王族として、相手に言質を取られるようなことはあってはなりません。真意のわからない相手の質問には答えなくていいのですよ」
第一王妃は諭すように言った。その背は凜と伸びている。
王妃をやっているのは伊達ではないのだと、アドリアンは感じた。
「そうします」
静かに頷く。
「そろそろ、時間です」
係りの人間が呼びに来た。
国王がすっと立ち上がり、他がそれに続く。
何回目かになる謁見に向かった。
仲良くできそうだとお互いに思っています。




