母の愛
いちゃいちゃターンです。
一日の諸々全てを終え、マリアンヌとラインハルトは夫婦の寝室に引っ込んだ。
「アドリアンとオーレリアンが帰ってきてから、なんだかんだと忙しいですね」
そんなことを言いながら、マリアンヌは軽く欠伸を漏らす。不意に後ろから抱きしめられた。
「ラインハルト様?」
驚いて、その腕の中で後ろを振り返る。
「楽しそうだったね」
少し妬いた顔をされた。
「何の話です?」
マリアンヌは首を傾げる。
「学校の話だよ」
ラインハルトは答えた。抱きしめた腕にぎゅっと力を入れる。
「楽しそうに見えました?」
マリアンヌは苦く笑った。
「すごくね」
ラインハルトは頷いた。
「確かに、構想を練るのは楽しいですね。でも実際問題、実現はなかなか難しいです」
マリアンヌはため息を吐く。
そこまで答えて、その話題の時のラインハルトは妙に静かだったことを思い出した。
「そういえば、ずっと押し黙っていたのは何故です?」
逆に聞く。
「楽しそうなのに水を差すのは悪いと思ってね」
ラインハルトは答えた。マリアンヌの首筋に顔を押し付け、チュッチュッとキスをする。
「……やはり、実現は難しいですか?」
マリアンヌは少し暗い顔をした。
「かなりね。簡単に実現できるものなら、君がとっくに実現しているだろう?」
ラインハルトは聞く。
マリアンヌはははっと笑った。
「買いかぶりすぎでよ。わたしはその他大勢ですからね。学校制度の確立なんて主役級の仕事、わたしの役目ではないので手をつけなかっただけです」
首を横に振る。
「まあ、どう考えても実現が困難で、諦めていたのも事実ですが……」
ぼやいた。
「それをわが子に振るのかい?」
ラインハルトは苦笑する。
「あの子たちは仕事を始めたばかりで、任される仕事はほぼ雑務です。だから時間もあるし、学校でいろんなものを見て吸収してきたから新しいアイデアが出てくるかもしれない。何より、困難だから挑戦する意味があの子達にはあるのです。世の中、甘くないんです」
だから丸投げしたというマリアンヌの言葉に、ラインハルトは何とも微妙な顔をする。
「愛する息子にも手厳しいね」
囁いた。
だがそんなことを言いながら、その手はマリアンヌの胸を揉んでいる。
「言動と行動が合っていませんよ?」
その手を掴んで、マリアンヌは止めた。
「愛しているから、厳しいんです」
ラインハルトの言葉を訂正する。
「恰好いいね。自分の妻に惚れ直しそうだ」
ラインハルトは笑った。そのきらきら笑顔にマリアンヌはちょっと気圧される。
「惚れ直されるようなことは何も……」
困惑した。
「アドリアンとオーレリアンは幸せだね。直ぐ身近に、手厳しい教師がいる。王子として生まれ、兄弟仲もよく、王宮の派閥争いからも守られて育ったあの子達が、私は少し心配だったんだよ。あまりに苦労を知らなすぎる」
ラインハルトの言葉にマリアンヌは同意した。
「わたしもそれは感じていました。あまりに完璧に守りすぎてしまいましたね」
反省する。
「挫折も、苦労も、今のうちにしておいた方がいいんです。今なら、わたしも、ラインハルト様も、国王陛下もいます。多少の失敗ならフォローすることができるでしょう。学校制度を確立するのなんて、簡単に出来るわけがないです。悩んで、迷って、自分の答えを見つければいいんですよ」
そんなことを話していたら、マリアンヌは顎を掴みあげられた。唇が唇で塞がれる。
「んっ」
マリアンヌは声を漏らした。舌が口の中に入り込んでくる。
キスをしたまま、マリアンヌはゆっくりとベッドに押し倒された。
お腹の上に覆い被さらないよう、ラインハルトはマリアンヌの身体の横に自分の身体を横たえる。寝間着のボタンが外され、ラインハルトの手はマリアンヌの肌に触れた。直接、胸を掴まれる。
「昨日の跡がまだ消えないんですけど……」
控え目に、マリアンヌは文句を言った。
「大丈夫。昨日と違うところに付ければいい」
ラインハルトはにこやかに答える。そこに爽やかさは一切なかった。瞳に情欲が揺らいでいる。
(これは止めても無駄だな)
マリアンヌは諦めた。爽やか王子は意外と獣だ。それは身を持って知っている。
(この世界には不妊もないけど、セックスレスもないのかな)
そんなことを考えているうちに、気づいたらほとんど裸にされていた。
基本、バカップルです。




