父と子
国王視点です。
アドリアンとオーレリアンは祖父である国王の側近になった。
それはすなわち、皇太子の次の王位継承者は2人のうちのどちらかであるということになる。
国王や皇太子の真意はともかく、周囲はそう判断した。
そしてもちろん、国王は周りがそのように判断することを知っている。
知っていて、側近として召しかかえた。
国王の中には、2人のうちのどちらかにという思いが確かにある。
皇太子の次の王位継承者はその子供達の中から選ばれる。マリアンヌとラインハルトが意地を張ったように頑張ったので、今、その権利を持つ子供達は4人もいた。間もなく、それが5人になるかもしれない。マリアンヌは6人目の子供を身篭っていた。
早々に候補を絞らないと、王宮は混乱するだろう。派閥が4つも5つも出来たら、国政にも支障が出る。
だから、国王は選択肢を二つに限定した。
アドリアンかオーレリアンのどちらかが国王になる可能性が高いことを示す。
それはラインハルトとマリアンヌの考えにも近いと思った。
2人のうちどちらかが国王になるだろうと考え、ラインハルトたちは息子達を寄宿学校に入れたに違いない。そう遠くない将来、今以上に外交が必要で重要になることを見越して。
これで文句はないでしょう?――4人目の男の子が生まれた時、ラインハルトが言ったことを国王は思い出した。
実の父である自分を息子はどこか冷たい目で見ていた。
跡継ぎが生まれなければ別れさせるとか他にも妃を娶らせるとか、結婚を認める時に口にした言葉をラインハルトは地味に根に持っていたらしい。
マリアンヌは直ぐに身篭り、結婚式を行うときにはすでにお腹に子がいたので、国王はその言葉はほとんど忘れていた。最初に生まれたのが例え女の子だったとしても、次に男の子を身篭る可能性は高かっただろう。あの時の口約束はほとんどないようなものに国王の中ではなっていた。
だが、言った側と言われた側では違うらしい。
ラインハルトはずっと引っかかっていたようだ。
怒る息子を見て、国王は反省する。
国王もただの父親だ。息子には嫌われたくない。
ラインハルトは昔から理知的で、冷静だ。王族らしい王族で、自分の感情を顕にすることはほとんどない。
にこやかな笑顔で周囲を煙にまいてきた。
だがマリアンヌのことにだけは、冷静さを失う。
結婚前、マリアンヌを傷つけた父親を許せないようだ。
いつか、何かの機会で挽回したいと国王は願う。
ラインハルトとマリアンヌをなんらかの形でサポートしたいと考えていた。
そこで、アドリアンとオーレリアンを自分の側近にすることにする。
ラインハルトが2人を自分のそばに置こうと考えていたことは知っていた。だが、どうせ覚えるなら国王の仕事を見て覚える方が2人のためになるだろう。
(余計なお世話だと思われているかもしれないが)
国王は心の中で苦笑した。
面談したいというラインハルトの要請を受け入れ、許可を出す。
「失礼します」
ラインハルトは執務室に入ってきた。
その目は国王ではなく、傍らの自分の息子達を見る。働いている姿に、目を細めた。
アドリアンとオーレリアンはまだ子供で、あたりまえだがたいして役には立たない。出来るのは雑務くらいだ。
だが文句を言わず雑務をこなしている。王族だからという無駄なプライドは2人にはなかった。マリアンヌらしい子育てだと思う。
「今日はどうした?」
国王は息子に問う。
「建国祭のことで、ご相談があってやってきました」
ラインハルトは答えた。
国王はちらりと周りを見る。
アドリアンとオーレリアンのほかに2人ほど、文官が仕事をしていた。
(さて、どうしよう)
国王は考える。人払いをするべきか考える。だが、人払いをする場合はアドリアンとオーレリアンも追い出さなければならない。2人だけ特別扱いするわけにはいかないのだ。
2人にはできるだけいろんなものを見せたいので、できれば追い出したくない。
(人払いが必要な内容なら、ラインハルトがそう言うだろう)
国王はそのまま話を聞くことにした。
「話せ」
発言を促す。
「王家は歴代の国王の肖像画を保有しています。その肖像画を建国祭の時に展示してはいかがでしょう?」
ラインハルトはずばっと用件のみ口にした。
「何のために?」
国おは尋ねる。必要性を聞いた。
「毎回、市民達は大広間にいたるまで、長い時間を並んで待ちます。そのただ待っているだけの時間を、肖像画の鑑賞に当てたら、暇も潰れるし、王族への畏怖も増すのではありませんか? 肖像画を通して、市民は歴代の王の偉大さに触れるでしょう」
ラインハルトは微笑む。
「歴代の王の偉大さか……」
国王はその言葉を繰り返した。
それが何を意味するのか、わからないわけがない。この国にとって、偉大な王は賢王だ。つまり、王族しか入ることが許されていないあの部屋にある絵を飾れと要求している。
「そのようなことに意味があるのか?」
国王は首を傾げた。
絵を飾るくらい、たいした手間ではない。だが、絵を飾った影響は何らかの形で出てくるだろう。
それは良いものとは限らない。そんなことはラインハルトも承知しているはずだ。
「意味はあると思います。肖像画によって人々は歴代の王に想いを馳せ、国を守って来てくれた王達に深く感謝するでしょう。それは建国祭の意義でもあるのではありませんか?」
ラインハルトは否定のしようがないことを口にする。
「……」
国王は少し考えた。ちらりとアドリアンとオーレリアンを見る。2人には当然、自分達の会話は聞こえていた。だが、全く関心を向けていない。
(すでに話し合った後ということか)
知っている話題だから、気にしないのだと国王にはわかった。
何を画策しているのか知らないが、息子達が考えたことなら乗ってやってもいいと思った。
「良いだろう」
国王は許可する。
「その件は一任する」
丸投げした。
「ありがとうございます」
ラインハルトは頭を下げる。そしてちゃっかり、人手が必要になったら国王の側近達を借り出すという許可も得た。
OKを出します。反対する理由もないしね。




