画策(後)
マリアンヌが楽しそうです。
マリアンヌの言葉に、それはそれは嫌な顔をラインハルトはした。
(信用ないな、わたし)
マリアンヌは心の中で苦笑する。
「何を考えている?」
ラインハルトは警戒した。
「毎回、思っていたことがあるのです」
マリアンヌは切り出す。
「大広間に入るために、市民達は長時間、並ぶでしょう? お城の中に入る前も、入ってからも。そして散々待たされた挙句、挨拶できて顔が見られるのは10分足らず。正直、とっても効率が悪くて割りに合わないと思いません?」
ラインハルトに尋ねた。
「それを承知の上で、市民は並ぶのだろう?」
逆にラインハルトは聞き返す。
「そうですね。こういう機会でなければ、市民は王族を見ることも出来ませんから。王都に住む市民は王族のお膝元で暮らしているのが自慢で誇りなのです。だから、長い時間並んで待っても、王族に挨拶をしたがります。でもただ待たせるのも悪いので、待っている間も何か楽しめたらいいと思いません?」
ラインハルトだけではなく、アドリアンやオーレリアンにもマリアンヌは聞いた。
「具体的に、何をしたいんだ?」
ラインハルトは困った顔をする。
マリアンヌが回りくどい言い方をする時は、たいてい碌なことではない。
「そんなに警戒しなくても、大丈夫ですよ」
マリアンヌは笑った。
「長い廊下に、歴代の王の肖像画が飾ってあれば、それを眺めながら進む市民の皆さんは退屈しないのではないと思うのです」
提案する。
「歴代の……。つまり、賢王の肖像画を飾れと言うのか?」
ラインハルトは微妙な顔をした。
「大小大きさは様々だけれど、王族は歴代の王の肖像画を全てお持ちでしょう? それが順番に並んで飾られている様は壮観でしょうね、国王の威厳も示すことになると思いません? 建国祭に相応しいイベントではありませんか。並んでいる間、市民は普段は王族しか見ることが出来ない肖像画をじっくりと見ることができるのです。特別感もあるでしょう?」
王宮に入って、大広間までは一直線だ。そこには長い廊下がある。飾る場所には困らないだろう。
「肖像画を見せ、アドリアンが賢王に似ていることを市民に自ら気づかせるということか」
ラインハルトは意図を察した。
「そう。誰かが噂を流すのではなく、市民達が自らそういう話をしてくれるのです。こちらとしては願ったり叶ったりでしょう?」
マリアンヌは楽しげな顔をする。
こういうことを考えている時のマリアンヌはとても生き生きしていた。本当は策略をめぐらせたりするのが好きなのだろう。だが、自分がそういう場で活躍するのは良くないことを知っている。目立てば、恨みや妬みを買うだろう。そしてそれは王族として守られている自分達よりその周りのもっとも弱いところに向かう。
マリアンヌはそれを自分の実家である男爵家だと読んでいた。父や弟の安全のため、マリアンヌは決して、目立つことをしてはならない。
「しかも経費がかからず、待っている間の市民達の退屈も潰れるのですよ。王族に挨拶したいと思うような市民なら、肖像画も楽しんでくれるでしょう」
ラインハルトの反応をマリアンヌは伺った。
「悪くはないと思います。しかし、弱くないですか?」
オーレリアンが難しい顔をする。
「弱い?」
マリアンヌは尋ねた。
「肖像画に似ているというだけでは、アドリアンが賢王の生まれ変わりであるというアピールには足りないと思います」
オーレリアンが答える。
「いや。この場合、そのくらい弱い方がむしろいい」
マリアンヌが答える前に、ラインハルトが言った。
「アドリアンが賢王の生まれ変わりであると、提示できる確たる証拠がこちらには何もない。そもそも、生まれ変わりを証明することなんて不可能だからな。それなら、流れる噂は『アドリアン王子は賢王の生まれ変わりだ』ではなく、『アドリアン王子は賢王の肖像画にとてもよく似ている。もしかしたら、賢王が予言した生まれ変わりはアドリアン王子ではないのか?』くらいがいい。しかも、市民が勝手に流した噂なら、こちらは何の責任も取る必要がない」
悪くないと頷く。
「ね? なかなかいい感じでしょう?」
マリアンヌはオーレリアンを見た。
オーレリアンは困惑する。
「そんな曖昧な感じで大丈夫なのですか?」
不安がった。
「そもそも、賢王が転生するって話そのものが曖昧で誰も証明出来ないものなのよ。転生会を納得させるのはこの程度で十分だわ。あとはアドリアンが王となった時、やはり賢王の生まれ変わりなのだと、国民や貴族が納得するような良い政を行えばいいのよ」
さらりと簡単そうに、とても大変なことをマリアンヌは口にした。
「一番厄介なところをしれっと丸投げしましたね?」
オーレリアンは睨む。
「だってそこはアドリアンとオーレリアンに頑張ってもらうしかないでしょう? その頃、わたしたちは楽隠居してのんびり楽しく暮らしている予定だし。……ね?」
マリアンヌはラインハルトに同意を求めた。
「そうだね。2人で旅とかしたいね」
ラインハルトは頷く。
楽しげに引退後の旅行の話しなんて始めたバカップルな両親をオーレリアンとアドリアは冷めた目で見ていた。
王位を継いだら、さっさと王位を息子に譲って、自分は楽隠居してマリアンヌと楽しく暮らすことがラインハルトの人生の目標です。




