画策(前)
予定通りに人生はすすまないものです。
マリアンヌは普段と変わらない一日を過ごした。
朝、仕事に行くラインハルトとアドリアンたちを見送り、小さな子供達の相手をする。
アドリアンとオーレリアン、そしてその2人を見て育ったエイドリアンははっきりいって手のかからない子だった。だがその後に生まれた子達は手がかかる。
毎日が戦争だ。子育ての大変さを今頃、実感している。
だがそんな日常が楽しくもあった。
結婚をせず、田舎で自給自足の静かな生活を送ろうとしていた自分が、王宮で、こんな大家族の母になっていることが不思議でならない。
(どこで道を間違えたのだろう?)
そう思わないわけでもなかったが、もう一度人生をやり直しても、たぶん自分は同じ選択をするだろう。夫も子供達も愛している。彼らと出会えない人生を、自分はもう選べない。
そうして慌しく過ぎた一日の終わり、下の子供達を寝かしつけた後で、マリアンヌは昨日と同じようにラインハルトたちと話し合うことにした。
「さて、具体的な話し合いをしましょうか」
マリアンヌはふふふと笑う。
「楽しげですね」
アドリアンは母を不思議そうに見た。
「こうやって4人で話すのが、なんか嬉しくて」
マリアンヌは答える。
「アドリアンもオーレリアンも大人になったのね」
そんなことを言った。
2人は照れくさい顔をする。思春期の男の子っぽい反応に、マリアンヌはますますご機嫌になった。だがあまりからかうと、オーレリアンはともかくアドリアンは怒るだろう。年齢的にはそろそろ反抗期だ。マリアンヌはちょっとドキドキしている。
(シエルはなんだかんだいって反抗期がなく終わったから、反抗期の男の子にどう接したらいいのかよくわからないのよね)
心の中で苦笑した。
「マリアンヌには何か考えがあるのか?」
ラインハルトは聞く。何もなく、マリアンヌはこういう場を作らない。考えていることがあるから、話し合おうと持ちかけたのだろう。
「ありますよ」
マリアンヌは頷いた。
「二ヵ月後に建国祭があること、もちろん知っていますよね?」
3人を見る。
「もちろん」
ラインハルトは頷いた。
「知っていますが、実は参加したことがないのでよくわかりません」
アドリアンは正直に答える。小さい頃は子供なので関係がないと言われ、寄宿学校に通っている時は国を離れているのでそもそも関わりようがなかった。
建国祭とは、文字通りの国の建国を祝う祭りだ。当日は、王宮の門が平民に対しても開かれる。大広間までなら誰でも入ることが出来た。
その大広間には壇上に玉座が作られる。
午前中は王が、午後は皇太子が交代で座った。
広間に来た市民達は挨拶することが出来る。もっとも、貴族達と違い一人一人が挨拶できるわけではない。広間は入れ替わり制になっていて、いっぱいに人を入れたら扉を閉める。
そこに王族が登場して玉座に座り、集まった市民は一斉に頭を下げて挨拶をする。それに対し、玉座にいる王族は言葉をかけた。一言二言話した後、王族は退室する。それを確認した後に扉が開き、市民は広間を出された。次の市民が入れ替わりに広間に入る。
入れ替わりで30分ほど、挨拶などの一連の流れが10分ほどで、一回40分の入れ替え制のアトラクションみたいだなとマリアンヌは思っていた。
ちなみに、王が玉座にいる時はその横には王妃たちが並んで立ち、ラインハルトの時はマリアンヌが横に立っている。
子供達に出番はないので、離宮に隔離するのが通常だ。大勢の人間が出入りするので、護衛の観点から離宮から出さないことが一番安全なのだろう。
「その建国祭に、今回はアドリアンとオーレリアンの2人も同席させようと思います」
マリアンヌはにこっと笑った。
「午後の部に、私の家族としてか?」
ラインハルトは問う。
「午後はそうですね。午前の部では国王の側近として立たせることにしましょう」
マリアンヌは頷いた。
「午前も午後も玉座の隣に立ち、国民に顔を売るということか」
ラインハルトは苦笑する。
王子の登場に、市民達は興味津々だろう。盛り上がるに違いない。
だが、それだけだ。たいしてメリットを感じない。
「盛り上がるだろうが、それが何だというのだ?」
ラインハルトは首を傾げた。
マリアンヌの案にしては、詰めが甘い。
市民の支持はないよりあった方がいいのは事実だ。だが、それは貴族社会においてはそれほど意味をなさない。
「もちろん、ただ顔を売るだけではありません。もう一つ、仕掛けをします」
意味深に、マリアンヌは笑った。
悪いことを考えている顔をします。別に悪いことはではないのですが。




