閑話:双子(後)
こんな学生生活送っていました。
寄宿学校に入って、アドリアンにはわかったことがある。
自分とオーレリアンはどうやらハイスペックな人間のようだ。今までは比較対象がオーレリアンしかいないからこれが普通だと思っていた。だが多くの同級生は自分達より出来ない。彼らが劣っているのではなく、自分達が勝っているのだと知った。
だがだからといって、驕るつもりはない。正直、周りの人間はどうでもいい存在だ。自分にはオーレリアンがいれば事足りる。
自分の半身、もう1人の自分。いや、自分自身。
自分とオーレリアンの線引きが昔からアドリアンは曖昧だ。学校に入って、それが顕著になる。オーレリアンの全てを把握していないと気がすまなかった。
それが普通ではないことは自覚している。だが、改善する必要は感じていない。自分たちはこの先もずっと一緒に居るだろう。どちらかが国王になり、もう1人がそれを補佐する。離れる必要なんてない。
学校に入り、多くの同級生に囲まれてアドリアンはこの世界は自分達と自分達以外とに分かれていると悟った。世界には内と外がある。
アドリアンは器用なので、外の人間とも上手く付き合う。好き好んで揉める必要はなかった。上手に付き合った方が煩わしくない。だから愛想は良くした。
人当たりがいいアドリアンは社交性があると思われている。
一方、オーレリアンはアドリアンに人間関係を丸投げしていた。
外の人間に全く関心がない。学校にいる生徒のほとんどとは、学生の間の数年を一緒に過ごすだけで、その後に付き合うことはほぼないだろう。自分の人生に関わりのない相手に時間を費やすのは惜しいと考える。極端に効率を重視した。
アドリアンがいれば、大抵のことは困らない。アドリアンとオーレリアンはいつも一緒にいた。
そんな感じで学生生活を過ごし、5年生になる。2人揃って生徒会の役員に選ばれた。同級生にもう1人、生徒会役員がいる。成績発表で名前をよく見るので、覚えていた。いつも3番にいる彼だ。
クロードと声をかけると、相手はひどく驚く。名前を覚えられているとは思っていなかったようだ。誘って、一緒に生徒会室に行く。
生徒会の役員は地味に雑務が多かった。毎日のように生徒会に顔を出すことになる。それはクロードも一緒だ。自然と行動を共にすることが多くなる。
生徒会室は役員以外の立ち入りは禁止だ。そのため、余計な人は来ない。案外、居心地が良かった。
成長するにつれ、アドリアンとオーレリアンの周りは騒がしくなる。下心満々で寄ってくる女が増えた。
彼女らは意外にしぶとい。邪険にしても冷たくあしらっても、懲りなかった。そもそも、アドリアンとオーレリアンのそんな対応は織り込み済みらしい。
いい加減鬱陶しかったので、生徒会室は恰好の逃げ場所になった。
だが生徒会室に逃げ込んでも、クロードとは顔を合わせる。
クロードは一言で言えば、“邪魔にならない男”だ。
頭がよく、理解も早い。自分とオーレリアンの関係に口を出したら終わりだということを最初から理解していて、何も言わなかった。
一緒にいるのが苦ではない。
アドリアンは自分とオーレリアンの関係を、クロードには包み隠さず見せていた。
どんな反応をするのか、確認する。
自分とオーレリアンがキスしていることを、アドリアンも普通だとは思っていない。赤ん坊の頃から挨拶としてキスしていたが、そういうのが許されるのは小さな頃までだと知っていた。母もたぶん、自分とオーレリアンがキスしていることを知らないだろう。悩ませたくないので、母の前ではキスはしない。
しかしクロードの前では、オーレリアンを押し倒してキスをした。
何時間もオーレリアンと引き離されて、アドリアンはイライラする。
引き離された理由が、重大なことならまだ我慢も出来た。だが、くだらないことだった。
くだらないのに、やらなければいけないことが世の中には案外ある。
自分とオーレリアンのキスを見て、クロードは驚いていた。 はっと息を飲んだのがわかる。
だが、クロードは何も言わなかった。自分とオーレリアンの間ではそれが普通であることをすぐに察したらしい。
そして受け入れる。
(変なやつ)
自分のことは棚に上げて、アドリアンはそう思った。
だが、悪くない。クロードのことをそれなりに認めた。内と外の中間くらいに彼は位置している。
それからは2人より3人でいることの方が多くなった。
オーレリアンもいつの間にかクロードを受けて入れている。
「正直、私はそれが少し面白くない」
アドリアンはぼやいた。オーレリアンに膝枕してもらいながら、クロードを睨む。
「何の話?」
唐突な言葉に、クロードは困惑した。生徒会の資料に向けていた目を上げる。
「オーレリアンはクロードに優しすぎる」
アドリアンは不満を口にした。
「いや、それは気のせい」
クロードは即座に否定する。バカらしいという顔をした。
「ないな」
オーレリアンも同意する。
「ほら、そういうとこ。仲良しだろ?」
アドリアンは拗ねた。
「オーレリアンは私だけを好きでいればいいんだ」
駄々を捏ねる。
「大丈夫だ。愛しているよ」
オーレリアンは囁いた。全く感情がこもっていない棒読みのセリフにアドリアンは傷ついた顔をする。
「なんか冷たい」
愚痴った。
「そうだな。今、ちょっと面倒くさいと思っている」
オーレリアンは正直に言う。
「これを読み終わるまで、静かにしていてくれ。後で気が済むまで構ってやるから」
オーレリアンはやれやれという顔をした。
「じゃあ、一緒に風呂に入ろう」
アドリアンは強請る。
「……」
オーレリアンは渋い顔をした。嫌らしい。
「珍しい。オーレリアンがアドリアンを拒む時もあるんだな」
クロードは呟いた。
「風呂とか、普通に一緒に入っていると思っていた」
正直に言う。
「最近、入ってくれないんだよ」
アドリアンは口を尖らせた。
「くっついて離れないのが鬱陶しい」
オーレリアンは眉をしかめる。
「風呂くらい、一人でのんびり入りたい」
本音を漏らした。
「一緒に入ったって、のんびり出来るだろ?」
アドリアンは反論する。
「……」
オーレリアンは冷たい目でアドリアンを見た。
「……」
アドリアンは気まずい顔で目を逸らす。
何かあったらしい。
(気になるけど、怖くて聞けない)
クロードは苦笑した。
クロードは将来王様になるので、付き合いは続く予定です。




