新しい日常
留守にしていた間にいろいろ変わっています。
マリアンヌはラインハルトと息子達が仕事から戻ってくるのを出迎えた。
ラインハルトに軽くハグをしてから、アドリアン、オーレリアンの順番で抱きしめる。
そこでふと、マリアンヌはいつもと違う何かを感じた。
「……」
オーレリアンを見る。
オーレリアンはドキッとした。
「何かあった?」
マリアンヌは問う。具体的に何がどうというわけではなかった。だが、違和感を覚える。
「どうして?」
オーレリアンは苦く笑った。どきまぎと目が泳ぐ。
そんなオーレリアンの姿は珍しかった。
(何かあったらしい)
マリアンヌは確信する。問いかけようと口を開いた。
「話は後にしよう」
ラインハルトがマリアンヌを止める。
マリアンヌはラインハルトを見た。
ラインハルトは小さく頷く。
それだけで、マリアンヌは理解した。
「そうね」
素直に頷く。
「後で、ゆっくり話をしましょう」
にこやかに微笑んだ。
夕食後、家族団欒の時間があった。マリアンヌはラインハルトと並んでソファに座る。
アドリアンとオーレリアンは小さな弟妹の相手をしていた。
何年も寄宿学校で離れていたせいか、アドリアンとオーレリアンはいまいち下の子たちと親しくない。最初は距離があった。だがそれを三男のエイドリアンが取り持つ。子供は順応力が高いのか、いまではもうすっかり下の子たちはアドリアンとオーレリアンに懐いていた。
2人は上手に小さい子たちと遊んであげる。
「ああしていると、まだまだ子供ね」
マリアンヌは呟いた。子供らしい姿に、ほっこりする。
「そうだね」
ラインハルトも頷いた。
「オーレリアンとか、普段は大人びて見えるけど今はちゃんと子供だ」
そう続ける。
(まあ、中身は大人だからね)
マリアンヌは心の中で突っ込んだ。
オーレリアンが転生者であることを今でもラインハルトには秘密にしている。
余計なことを知れば、余計な悩みが増えるだろう。
秘密は打ち明けた方は楽になれるが、聞かされた方は重荷を背負う。
だたの転生者ならともかく、オーレリアンは賢王の生まれ変わりだ。いろいろ厄介なことになるのは目に見えている。
(知らない方が幸せなことってあるわよね)
マリアンヌは自分に言い聞かせていた。
「ちゃんと子供っぽいところがあると、安心するよ」
ラインハルトはオーレリアンの様子を眺めながら、安堵を顔に浮かべる。
「そうね」
マリアンヌも同意した。
「かあさま~」
そこへ末っ子の姫が甘えてくる。マリアンヌの膝に縋った。眠くなったらしい。ぐずり始めた。
「はいはい。そろそろおねむね」
マリアンヌは笑う。
姫を抱っこした。
「そろそろ、寝ましょうか?」
エイドリアンともう1人に声をかける。
アドリアンとオーレリアンは子供部屋とは別の部屋に寝ていた。
さすがに5人を一緒にするのは無理がある。部屋は分けていた。
マリアンヌの声を聞くと、もう1人がタタタっと駆け寄ってくる。マリアンヌのスカートを掴んだ。
「かあさま、抱っこ」
妹が抱っこされているのを見て、もう1人も強請る。
「はいはい」
マリアンヌは返事をして、抱いていた娘を下ろそうとした。だが、娘は暴れる。
「やーっ!!」
叫んだ。大騒ぎする。
子供部屋に移動するだけのことが、一仕事だ。宥めすかして、マリアンヌはメアリと共に下の子達を連れて行く。
「毎日、毎日。何故、同じことで大騒ぎになるのだろう?」
アドリアンは不思議がった。似たようなことを昨日も、一昨日もその前もやっている。
「子供とはそういうものだよ」
ラインハルトは笑った。
「あの子たちが生まれてから、知ったけどね。アドリアンとオーレリアンは手のかからない子だったから」
双子は大人しく、駄々を捏ねるようなこともない子供だった。それを見て育ったエイドリアンも大人しい子に育つ。2人の兄達は大抵のことを譲ってくれるので、駄々を捏ねる必要もなかった。
それが2人の兄が寄宿学校に入り、新しい弟が出来てエイドリアンの毎日は変わる。
赤ん坊というのは理屈が通じなかった。
その後、妹が生まれると離宮の中はさらに騒がしくなる。2人は大抵、何かを取り合って揉めていた。
それはエイドリアンの手に負えない。
ラインハルトは子供達のそんな様子を見ている。
子供は騒がしいものだということを、ラインハルトは初めて知った。
ラインハルトは戸惑ったが、マリアンヌはでんと構えている。
子供はそんなものだと言った。
そしてそんな日常に、ラインハルトも慣れる。
「アドリアンとオーレリアンもそのうち慣れるよ」
ラインハルトは笑った。
そんな父を見て、アドリアンとオーレリアンは顔を見合す。
5年の間に、父はより父親らしくなったと思った。
大家族で賑やかです。




