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前世のしがらみ

繰り返す転生は孤独との戦いです。





 オーレリアンは何度も転生を繰り返していた。正直、もううんざりしている。

 何度生まれ変わっても、王族だ。どの人生もたいして変わり映えはしない。王宮で生まれて、ほとんど城から出ることなく亡くなる。ただひたすら、アルス王国のために尽くすだけの人生だ。

 そのために、前世の記憶を持っているのだとオーレリアンは思っている。前世でやり残したことを今世でということだと、自分の人生を理解していた。

 その集大成が賢王と呼ばれたあの時代になる。

 あの時は、今までの積み重ねがようやく実った。国の礎となる仕組みをいくつも作り上げ、一定の成果を上げる。

 これでアルス王国は安泰だと思った。自分の役目もやっと終わったのだと。


 賢王の時代は長生きもした。在位期間も長く、老衰で死を迎える少し前まで、政務を担う。

 人に任せるより、自分でやる方が早いし確実だ。だがそれが良くないことは自覚している。全て自分で抱え込むと、人材が育たない。

 それがアルス王国の弱点になった。

 死の間際、尤も顕著にそれは現れる。

 大きなベッドの周りには側近や重臣達が集まっていた。

 間もなく命が尽きようとしている自分を囲み、さめざめと泣き始める。

 賢王亡き後、どうすればいいのかわからないと訴えられた。


(そんなことは自分で考えろ)


 そう思ったが、口に出来るわけがない。


(さて、どうしよう)


 死の間際まで、誰かのために国のために尽くさなければいけない人生を苦々しく思った。


「そんなに泣くな。心配しなくても、私は生まれ変わり戻ってくる」


 自分の命が尽きるのを実感しながら、そう告げる。弱々しいながら、その声は取り囲む人々にちゃんと届いた。

 それを口にしたのはただの思い付きだ。

 今まで、一度だって自分が転生を繰り返していることを告げたことはない。それは秘しておくものだという思い込みが自分の中にあった。

 だが、重臣達には希望が必要だ。未来に向かって、一つに纏まる大義名分があった方がいい。

 身内を一つに纏めるには、大雑把に二つの方法しかなかった。

 一つは外に共通の敵を作ること。その敵を破るために、仲間は団結する。

 しかしそれは諸刃の剣だ。

 敵がいなくなれば、矛先が今度は味方に向かう。歴史にはそんな事例がたくさんあった。

 もう一つは、目標を設定すること。その目標は達成が困難であればあるほど、良い。みんなで一致団結しなければ達成できず、かつどうしても達成したいという目標がベストだ。

 そこで賢王への情を利用することにする。

 自分が生まれ変わって戻ってくるまで、この国を発展させ、守ってくれるように言い残した。

 そこで力尽きて、賢王は死ぬ。

 その後のことは、次に生まれ変わるまで知らなかった。


 一つ前の人生で、オーレリアンは初めて跡継ぎではない次男に生まれる。

 アルス王国では長子制度は採用していない。兄弟のうち、最も実力がある者が家を継ぐ実力主義だ。だから、次男でも跡継ぎになる可能性はある。

 しかし、長男である兄とは年が離れていた。自分が生まれる前に、父は跡継ぎとして兄を指名する。その後、男子が生まれるなんて、誰も想像しなかったんだろう。

 跡継ぎが確定した後に、生まれた次男なんて争いの種にしかならない。

 オーレリアンはそのことを十分理解していた。早々に、臣下に下ることを決断する。

 問題は、父王にそのことを切り出すタイミングだ。

 下手に賢いなんて思われると厄介なので、遠まわしにあれこれ手を打つ。自分以外の大人が、画策してくれるように布石を打った。

 結果として、大公として臣下に下ることが決まる。

 オーレリアンはほっとした。これで問題はなくなったと思う。

 幸い、兄は国王を務めるには十分賢かった。国も安泰だろう。

 だがその後、転生会という会の存在を知った。

 自分が発したあの一言が、大きな流れを生んでいる。

 転生会は特に何かをするわけではない。ただ、賢王の転生を待っているだけの会だ。だが、そんな活動実績がないことこそが不気味でならない。

 得体が知れないものは怖がるのが人間の習性だ。

 何もしないからこそ、正体が掴めず気持ちが悪い。

(こんなことになるなんて……)

 オーレリアンは不用意な自分の一言を悔いた。

 だが後から悔いても、事態は何も良くならない。今さら、自分が賢王の生まれ変わりであることを告げることも不可能だ。

 国王の座に兄が就くのを邪魔することになる。

 結果として、誰にも自分が賢王の生まれ変わりであることを言わずに、大公として生きて生を終えた。

 そうして再び王族として、同じように前世の記憶を持つマリアンヌの息子として生まれる。

 オーレリアンとしての人生は、今まで何回となく繰り返してきた人生とは全く違った。

 秘密を母や兄弟と共有し、両親に守られる。

 初めて、親の愛情をいうのを知った。王宮では子育ては乳母が行う。両親の顔を見ることなんて、年に何回もなかった。それが普通だと思っていたから、寂しいと思ったこともない。

 マリアンヌの息子として生まれてから、初めてのことをたくさん体験した。

 何度生まれ変わっても、自分が何も知らなかったことを知る。


(今回の人生で、転生会のことは片をつける)


 オーレリアンはそう決めた。憂いを子孫達に残したくない。

 一人ではない今なら、なんでも出来る気がした。








今回の人生はとても幸せで、大切なものなのです。

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