側近
双子は期待されています。
国王は孫達が帰ってくるのを心待ちにしていた。アドリアンとオーレリアンが寄宿学校に入って以来、2人とはあまり会えていない。長期の休みには戻るが、帰国の挨拶に顔を見せるくらいがせいぜいだ。
国王はそれを寂しく思っている。
アドリアンとオーレリアンに国王は期待していた。ラインハルトの次は2人のどちらかにと考えている。そしてそう思っているのは国王だけではない。
重臣達も、ラインハルトの次に皇太子となるのは双子のどちらかだろうと考えていた。今の内に派閥に入って、自分の地位を確保したいと目論んでいる。
だがそれをマリアンヌが悉く潰していた。派閥を作らせない。
肝心の本人達が国外で、ほとんど王宮にいないこともあり、派閥は出来そうで出来なかった。
しかし寄宿学校を卒業して戻ってきた今、派閥はどうしたって出来上がるだろう。
2人を自分の手元に置くのが、いろんな意味で一番良いのではないかと国王は考えた。
自分なら2人を守れる。
今日はその話を孫達とするつもりでいた。
トントントン。
ノックが鳴り、執務室の扉が開く。
「アドリアン様とオーレリアン様が皇太子夫妻と共にお越しです」
取り次ぎの声が響いた。
「入りなさい」
国王は入室を許可する。
ぞろぞろと4人が揃って入ってきた。子供達を真ん中にして、両端にラインハルトとマリアンヌが立つ。
それは2人を守っているように見えた。
「相変わらず、過保護だな」
国王は苦笑する。
「帰国の挨拶くらい、子供達だけで十分であろう?」
尤もなことを言った。
「そうですね。でも、2人を寄宿学校に通わせてくださったお礼を改めて言いたかったので、同行いたしました」
ラインハルトはにっこり微笑む。
5年前、孫達を寄宿学校に入れることに国王は乗り気ではなかった。
長期の休みには帰国するとはいえ、それは年に二回ほどだ。半年は会えないことになる。それが寂しかった。自分の力の及ぶ範囲から出すことにも不安がある。
だが、両親が決めたことに祖父として異を唱えることは憚られた。国王として反対する理由はもっとない。
望まなくても、今後、外交の重要性は増すだろう。国交を制限することはどんどん難しくなるに違いない。そういう状況で、アドリアンとオーレリアンを寄宿学校に入れ、他国の王族や上級貴族達と繋がりを持つことは悪いことではなかった。今後、国の役に立つだろう。
「そうか」
国王はラインハルトの感謝をさらりと流した。
「ところで、今後のことだが……」
用件を口にする。
「今後、アドリアンとオーレリアンは私の側近として、側に置くことにする」
決定事項として、告げた。
「え?」
マリアンヌは驚いた顔をする。
「2人に仕事を覚えさせるには、実際に仕事をさせるのが一番いい。弟のエイドリアンさえ、王族として公務についているのだ。アドリアンとオーレリアンにはそれ以上に実務的な仕事も覚えてもらいたい」
国王はマリアンヌを見た。反対するとしたら、マリアンヌだと思っている。
しかし、マリアンヌは何も言わなかった。反対する正当な理由が見つからない。国王の考えは悪くなかった。
「ラインハルトもそれでいいな?」
国王は息子を見る。
「国王陛下がそう決めたのでしたら、私に反対する理由はありません」
ラインハルトは受け入れた。本当は自分の側に置くつもりだったので、面白くはない。だが、自分の感情を優先したりは出来なかった。
自分の立場をラインハルトは弁えている。
「そういうことで、明日からはこの執務室に出勤してくるように」
国王は言い渡した。
満足な顔で4人を見る。
マリアンヌは何とも微妙な顔をしていた。
自分がいろいろ教えるつもりだったので、パパは寂しいです。




