挨拶
帰ってきたので挨拶にいきます。
アドリアンとオーレリアンは、一度離宮に入った。弟妹達に顔を見せ、身支度を整える必要がある。皇太子である父と国王である祖父に帰国の挨拶をしに行かなければいけなかった。
「兄上」
エイドリアンがアドリアンとオーレリアンに順番に抱きつく。二人が寄宿学校に入った後に生まれた弟妹は、アドリアンとオーレリアンに対して少し余所余所しかった。一緒に暮らす時間が短いので、それは仕方ない。だが、エイドリアンは違った。幼い頃は2人とずっと一緒だったので、かなり懐いている。
そんなエイドリアンがアドリアンたちも可愛かった。
「ただいま、エイドリアン。お土産、たくさん買ってきたよ」
オーレリアンは微笑む。
「ありがとうございます」
エイドリアンは目を輝かせた。
2人からの土産は異国の珍しいものが多い。エイドリアンは毎回、兄達が買ってくる土産を心待ちにしていた。
そんな弟の頭を、アドリアンが撫でる。エイドリアンは笑顔で兄達を見上げた。
(いい光景だな~)
マリアンヌは幸せな気分になる。だが、いつまでも浸ってはいられなかった。
身支度を整えた息子達と、マリアンヌはラインハルトの執務室に向かった。今日は平日で、ラインハルトは仕事をしている。
ドアをノックして、三人は中に入った。
ラインハルトは書類に落としていた視線を上げる。
「おかえり。やっと帰ってきたな」
嬉しそうな顔をした。父として、そう言う。
だがアドリアンとオーレリアンは、皇太子としての父に礼を取った。
寄宿学校に通った成果を見せる。自分達が王子として立派に成長したことを、アドリアンとオーレリアンは証明しなければならなかった。
それが5年間、自分達に自由を与えてくれた両親へ一番の恩返しになるだろう。
「王子としての勤めもあるのに、5年も自由を与えていただきありがとうございます。これからは王子として、国のために尽くします」
アドリアンとオーレリアンは約束する。
この国の王子は7歳を過ぎると少しずつ仕事を与えられた。軽めの仕事から始まり、だんだんと責任の重い仕事を任されるようになる。王族の仕事をするのは男子だけなので、王宮にいる男子の王族が少ない今、手は常に足りない。そのため、まだ9歳のエイドリアンもそこそこ重要な役割を背負わされていた。
それは自分達が長く王宮を離れているせいだと、アドリアンもオーレリアンも自覚している。
寄宿学校で、彼らは多くのことを学んだ。人間と人間の関係は複雑で、とても厄介なことを知る。
国のいざこざから逃れるために寄宿学校に入れられたのに、本国から刺客が差し向けられて命を狙われるクラスメートがいたり、腹違いで寄宿学校に入れられ常に対立している兄弟がいたりした。国同士のいざこざが生徒達の関係に影響を及ぼすのも目にする。世界はアドリアンたちが考えていたよりずっと複雑で面倒だ。
おおらかなマリアンヌの周りは殺伐とした空気があまりない。マリアンヌは誰とでもそれなりに上手くやっていた。好かれないにしても、嫌われないように振舞う。それが普通だと思っていたが、どれほど大変なことなのかを学校生活で知った。
「そうだな。お前達はもう12歳だ。今までの分を取り戻すように、与えられる仕事は責任が重いものになるだろう。精進するように」
皇太子として、ラインハルトは言葉をかける。
それをアドリアンとオーレリアンは大きく頷いて、受け入れた。
その姿に、ラインハルトは目を細める。
「大人になったな」
感心すると共に、少し寂しそうな顔をした。
「もう12歳です」
オーレリアンが頷く。大人に近いと言いたかった。
「まだ12歳よ」
息子達の隣で、マリアンヌは苦笑する。自分が12歳の頃を思い出していた。
ちょうどシエルが生まれて母が亡くなった頃だ。
(前世の感覚ではまだまだ子供だけど、16歳で成人するこちらの世界では、12歳はそこそこ大人扱いされるのよね)
心の中で呟く。
親としては、少し寂しかった。5年も手放してやっと帰ってきたのだから、少しは甘えて欲しいし、甘やかしたい。
だが2人とも、自分の立場はよくわかっているようだ。
「今後のことは後でいろいろ話すとして、まずは国王陛下に挨拶に行こう」
ラインハルトは促す。自分も立ち上がった。
お祖父さんも実はお待ちかねです。




