育成
人材を育てるには教育が大事です。
アルステリアとの関係は現状維持でいくことに決まった。
話し合いが終わり、ルーズベルトとハワードは王の私室を出て行く。緊張に顔をこわばらせていたハワードがほっと息を吐くのが見えた。マリアンヌは小さく微笑む。
そんなマリアンヌは一人、部屋に残った。国王と話したいことがある。ハワードたちが出て行くのを見送ってから、口を開いた。
「ラインハルト様とはいつ、そういう話をしたんですか?」
尋ねる。
何の話だと国王は問わなかった。何を聞きたいかはわかっている。
「マリアンヌたちが旅立って、一週間も経たない頃ですね。顔を合わせる度に妻や子と離れることになったことに文句を言われて、さすがに私も参ったよ」
やれやれと溜息を吐く。
「つまり昨日の時点で、わたしが他国に出ることはもうないことは決まっていたんですね」
マリアンヌは複雑な顔をした。昨日のあのやり取りは何だったのだろうと思う。
(ただのプレイ? いや、でもさすがに……)
何とも渋い顔をした。
「そうだね」
国王は頷く。
マリアンヌがなにやら考え込んでいるのが気になった。だが、詳しく話を聞くほど無粋ではない。そこは触れない方がいいところなのはなんとなく察せられた。
「話とはそのことかい?」
国王は尋ねる。
「いいえ」
マリアンヌは首を横に振った。
「さっき、5年の間に人材を育成するという話をしていましたよね? その話を聞きながら、考えていたことがあるのです」
答えながら、少し逡巡する。言うか言うまいか、迷った。
「何をだい?」
国王はマリアンヌを促す。
「アルステリアの皇太子たちと飲みながら話をした時、各国の王族が集まる寄宿学校があると聞きました。かつてはアルス王国の王族もその学校に通っていたようです。その学校は今でもあるのですよね? そこに、アドリアンとオーレリアンを入れようかと考えています」
マリアンヌは一つ息を吐き、覚悟を決めたように話した。
予想もしない言葉に国王は驚く。
「その話をラインハルトは知っているのかい?」
確認した。
「いいえ。さっき、思いついたことですから」
マリアンヌは苦く笑う。
「あの子たちにはもっときちんとした教育が必要です。家庭教師では限界がありますし、自分の目で見て、触れて、知るのは大事なことです。学校に通えば、いろんな国の王族と知り合い、他国の文化を知る機会にもなるでしょう。あの子達にとってメリットは多いと思います」
淡々と説明した。
国王は意外そうな顔をする。
「そなたは子供達を離宮から出したくないのだと思っていた」
そんなことを言った。
「アルステリアで何かあったのか?」
尋ねる。そこには心配も見え隠れしていた。
「わたしも手放さず、ずっと自分の手元に置いておけるならそうしたいです。でも、それが無理なことはわかっています。子供達はいつか、自分の道を見つけて巣立っていってしまうでしょう。それなら、あの子たちが将来困らない最善の道を選びたいのです」
マリアンヌは真摯に訴える。
子供達を離宮から出さなかったのには理由があった。オーレリアンに前世の記憶があることは誰にもばれてはいけない。だが、中身は大人であるオーレリアンの行動はどうしても大人びて見えた。年相応ではない。それがあまり不自然ではなくなる年齢まで、他者との接触は極力避けた方がいいとマリアンヌは判断した。だが、もうそろそろいいだろう。今回の旅で、マリアンヌはそう思った。
「寄宿学校の話は私も聞いた事がある。しかし、アルス王家は長い間、寄宿学校とも関わりを断ってきた。それは必要ないと賢王が判断したからです。違いますか?」
国王はマリアンヌを見る。
「その時は不要だったかもしれません。でも、これからは必要なのではないですか? 5年後、あの子たちが大使としていろんな国を訪問することになるなら、いろんなものを見て、いろんな国の人と触れ合う機会があった方が絶対にいいでしょう。寄宿学校にはいろんな国の王族が集まると聞いています。いろんな国の人と触れ合う絶好の機会ではありませんか?」
マリアンヌは真っ直ぐ、国王を見返した。
「確かに、それは一理ありますね」
国王は納得する。
「でも、それをラインハルトが納得すると思いますか?」
マリアンヌに尋ねた。
「話し合います」
マリアンヌは答える。ラインハルトを説得するのは簡単ではないだろう。それはマリアンヌにもわかっていた。
「では、ラインハルトを説得してから、もう一度来なさい。この話はそれからです」
国王はぴしゃりと話を切る。
「わかりました」
マリアンヌは納得した。
マリアンヌも母としていろいろ考えています。




