報・連・相
報告・連絡・相談は必要です。
ラインハルトとルイスは醒めた目でルーズベルトとハワードを見ていた。
観察するようなその目をルーズベルトは真っ直ぐ見つめ返し、ハワードはとても気まずそうに受け止める。
ハワードはランスローでもラインハルトに会っていた。だがあの場ではとても穏やかだったラインハルトが今日は厳かな威圧感を放っている。皇太子という己の立場を理解し、全うしていた。
ハワードは萎縮してしまう。
そもそも、地方貴族に王宮は何とも居心地の悪い場所だ。早く謁見を終えて、地元に帰りたい。
そんなハワードの気持ちを察したのか、マリアンヌはさっさと打ち合わせを始めた。
「国王に広間で謁見した後、私室でお茶に呼ばれています」
そう説明する。
「それは私もですか?」
ハワードは遠慮気味に聞いた。国王の私室に呼ばれることなんて、地方貴族にはない。光栄だと思うより、自分には荷が重いと感じた。ハワードはある意味マリアンヌに感化されていて、出世欲があまりない。どちらかといえば、平穏無事なのんびりとした暮らしを望んでいた。
「気は進まないと思いますが、一緒です」
マリアンヌは気の毒そうにハワードを見る。眉を寄せる気持ちは理解できた。
「いえ、光栄です」
ハワードは取り繕う。気が進まないことを肯定するわけには出来なかった。
「そういうわけで、報告会では余計なことは一切、言うつもりはありません。本当に話したいことはお茶の時にいたしましょう」
マリアンヌはルーズベルトとハワードを見る。それを確認しておきたくて、離宮に呼んだ。
「わかりました」
ルーズベルトは意図を察して、頷く。ハワードにも異論はなかった。そもそも、自分に発言の機会なんて廻ってこないだろう。
自分は黙ってその場にいればいいのだと、覚悟を決めていた。
「では、そういうことで」
マリアンヌは満足そうに頷いた。
「公爵たちは大丈夫でしょうが、自分が余計なことを言わないようにマリアンヌ様は気をつけてください」
ルイスが釘を刺す。
「そうだよ、マリアンヌ」
ラインハルトは心配そうに妻を見た。
ルーズベルトは皇太子が大使である息子を心配してここにいるのだと思っていた。マリアンヌが口にした過保護な保護者というのはそういう意味だろうと受け止める。
しかし、そうではないと気づいた。ラインハルトやルイスが心配しているのはマリアンヌの方らしい。
(7歳の子供より心配される母親ってどうなんだ?)
ルーズベルトは心の中で苦笑した。だが、気持ちはわかる。マリアンヌには次に何をするのかわからない突飛なところがあった。
「言われなくても、わかっています」
マリアンヌは口うるさい2人に迷惑な顔をする。
「わかっていてやるから、性質が悪いんです」
ルイスにずばっと言った。
「……」
マリアンヌは言葉に詰まる。
「気をつけます」
殊勝に頷いた。
「ところで、お茶の時に何を話すつもりなんです?」
ラインハルトは尋ねる。気になっていた。
ルーズベルトはちらりとマリアンヌを見る。どう答えるか、観察した。
「外交に関わることなので、ここでは言いません。必要だと判断したら、国王様が自分でラインハルト様に話すでしょう。国王様から聞いてください」
マリアンヌは答えない。
ラインハルトは皇太子だ。おそらく、最終的にはラインハルトの耳にもその情報は入るだろう。次の国王として、知っておいた方がいい話だ。しかしそれをマリアンヌは勝手に自分で判断しない。その判断が出来る立場に自分がいないことをちゃんと理解していた。
(思ったより、ちゃんとしている)
ルーズベルトは心の中で感心する。皇太子がマリアンヌを妻に選んだ理由はそんなところにあるのかもしれないと思った。
ルーズベルトの中で、マリアンヌの評価が上がりました。




