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夫婦3

もう少し、続きました。





 翌朝、マリアンヌはラインハルトの腕の中で目覚めた。目を開けたら、目の前にラインハルトの綺麗な顔がある。睫毛の長さに少しびびった。


(だるい)


 だがそんな感慨以上に、身体が重い。いろいろ無茶をされた気がした。

 当のラインハルトは満足そうな顔で寝ている。その健やかな寝顔を見ていると、怒れなくなった。


(慣れないことをいろいろ頑張ってくれたみたいだし)


 心の中で独りごちる。

 すっかり末っ子と仲良くなっている様子を見て、マリアンヌは驚いた。

 ラインハルトは子供が嫌いではない。むしろ、たくさん欲しいと思うくらい好きなのだろう。だが、同母の兄弟がいないラインハルトは一人で育った。異母兄はいるが、兄弟として育ったとは言い難い。子供への接し方はわからないようだ。マリアンヌはそれに気づいていたので、出来る限りフォローしようとしてきた。間に入って、子供達との関係を取り持つ。だがそれがかえって子供達とラインハルトの間に距離を作っていたのかもしれない。

 帰宅して、ラインハルトと末っ子が打ち解けた様子を見た時、マリアンヌは自分を反省した。

 世の中、思い通りにいかないことなんていくらでもある。だがそこで諦めずに試行錯誤して、人はそれを乗り越えて行くのだろう。安易に手を貸すことは問題解決には繋がらないらしい。放っておくのも愛情のようだ。


(わたしもまだまだだなぁ)


 前世の記憶を持っていたって、まだ未熟だ。小さなため息がマリアンヌの口から漏れる。

 そっと、ラインハルトの顔に触れた。


「んっ……」


 小さく声を漏らして、ラインハルトは目を開ける。青い瞳にマリアンヌの顔が映った。


「おはよう」


 ラインハルトの口元に笑みが浮かぶ。自分の腕の中に妻がいることに満足した。


(朝イチからキラキラしている)


 夫の王子様っぷりにマリアンヌは感動する。


「おはようございます」


 挨拶を返した。

 ラインハルトはニコニコ笑いながら顔を寄せる。

 マリアンヌはそれを手のひらで防いだ。キスをさせない。

 邪魔されて、ラインハルトは不満な顔をした。


「何故、駄目なの?」


 口を尖らす。


「キスだけですまない雰囲気だからですよ」


 マリアンヌは答えた。


「……今日くらい、いいでしょう?」


 ラインハルトは拗ねる。マリアンヌの言葉は否定しなかった。


(本当にやる気だったのか)


 マリアンヌは心の中で苦笑する。


「駄目です。わたし、今日は忙しいんです」


 首を横に振った。


「レッジャーノ公爵やハワードと一緒に、報告にいかなければいけませんから」


 説明する。


「そんなの、後でも……」


 ラインハルトは引かなかった。


「後に出来るわけがないでしょう?」


 マリアンヌは呆れた顔をする。本来は、帰ってきて最初に報告に行くべきなのだ。それをしなかったのは公務の時間が終わっていたからで、朝イチで報告に行くのが筋だろう。

 もちろん、それはラインハルトもわかっていた。子供染みた我侭を言ってみたくなったのは、マリアンヌに甘えているだけだ。


「レッジャーノ公爵とハワードが離宮に寄ることになっているので、そろそろ起きて支度をしないと」


 マリアンヌはラインハルトの腕の中から逃げ出そうとする。


「もう少しだけ」


 ラインハルトは引き止めた。


「あと少しだけ、夫婦の時間を楽しんでもいいでしょう?」


 マリアンヌに訴える。

 寝室を出れば、マリアンヌは自分だけのものではなくなってしまう。

 母であり、皇太子妃だ。案外、マリアンヌは忙しい。


「じゃあ、少しだけ」


 マリアンヌは苦く笑った。大人しく、ラインハルトの腕の中に納まる。


(子供が出来たら、今以上に2人の時間が無くなることをラインハルト様はわかっているのかしら?)


 ふと、マリアンヌはそう思った。

 聞こうと思ったが、止める。それは時間がない朝に持ち出す話ではないと思った。







赤ちゃんが生まれたら赤ちゃん中心の生活になるわけです。

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