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夫婦

お正月なのでいちゃいちゃさせようと思ったら……^^;





 ラインハルトが我慢していることはマリアンヌもわかっていた。

 皇太子として、父として、ラインハルトにはプライドがある。子供達を差し置いて抱きつくことなんて出来ないし、くっついて離れない末っ子を引き剥がすことも出来なかった。


(反動が怖いな)


 マリアンヌはそう思う。

 ラインハルトはマリアンヌの前では珍しい作り笑いを顔に貼り付けていた。

 王子として生まれたラインハルトは社交が得意だ。作り笑顔で貴族たちを煙に巻くことも多い。

 だがマリアンヌにその笑顔を向けることは滅多になかった。


(これって、もしかしてものすごく面倒な感じになっているのでは?)


 マリアンヌは心の中でぼやく。無意識に、助けを求めるようにルイスに視線を向けた。

 その視線にルイスは気づく。一瞬、目が合った。

 しかしぬるっとルイスは目を逸らす。

 その顔には“巻き込むな”と書いてあった。

 助けてくれるつもりはないらしい。


(ううーん、どうしよう)


 マリアンヌは末っ子をあやしながら、頭の中ではいろいろ考えていた。






 考えた挙句、マリアンヌは自分の方からいくことにした。


「ただいま」


 寝室で2人きりになった瞬間、ラインハルトより先にマリアンヌが動く。ぎゅっと抱きついた。


「!?」


 ラインハルトは驚いた顔で固まる。マリアンヌから来ることは予想していなかったらしい。


「長い間、留守にしてごめんなさい」


 謝った。

 公務なのだから、自分が悪いわけでない。だが留守にしたのは事実だ。寂しい思いをさせただろう。


「仕事なのだから仕方ないですよ」


 優しい言葉が返ってきた。

 マリアンヌはほっとする。

 ラインハルトの機嫌は直ったと思った。だが、それは読みが甘かったらしい。


「でももう二度と、行かせません」


 ラインハルトはそう続けた。


(全然、機嫌は直っていない)


 マリアンヌは心の中で苦笑する。


「それはどうでしょう?」


 首を傾げた。

 おそらく、国王は今後もアドリアンとオーレリアンに外交の大使を任せるだろう。そうなれば、自分がついて行くのは必然だ。

 7歳の子供を、子供たちだけで他国に送るわけにはいかない。マリアンヌという保護者がいて、アドリアンとオーレリアンの大使としての役目は成立する。

 それはもちろん、ラインハルトだってわかっているはずだ。


「大丈夫です」


 にこやかにラインハルトは笑う。腕の中にマリアンヌの身体を捕まえた。


(何がどう大丈夫なの?)


 マリアンヌは不安になる。口に出しては聞けなかった。怖い答えしか返ってこない気がする。


「そろそろ次の子が欲しいと思っていたのです。今度は女の子もいいですね」


 そう言うと、マリアンヌの身体をラインハルトは抱き上げた。

 お姫様抱っこされて、マリアンヌは困惑する。


「何をするつもりですか?」


 わかっていても、マリアンヌは尋ねた。眉をしかめて、夫を見る。


「次の子を作りましょう。妊婦に遠出は無理ですから、大使関係の仕事は廻ってこなくなりますよ」


 にこやかにラインハルトは答えた。とてもいい笑顔を見せる。


「いやいや、それは駄目です。外交はどうするんです? アドリアンとオーレリアンを2人だけで見知らぬ他国に送るなんて、わたしは許せませんよ」


 マリアンヌは首を横に振った。

 妊娠したら、他国に行くことは出来ないだろう。妊婦に長距離移動は無理だ。

 しかし、そういう問題ではない。

 だがそんなことを話している間にも、その気のラインハルトは抱き上げたマリアンヌをベッドまで運んだ。そっと横たえると、その上から覆い被さるように押さえ込む。

 手際が良くて、マリアンヌは逃げ出せなかった。


「もちろん、私も可愛いわが子を保護者もなく他国に行かせるつもりはありません」


 ラインハルトが外交の仕事の一切を断るつもりでいることをマリアンヌは察する。


「そんなことをしたら、いろんなところでいろんな人が困るでしょう?」


 マリアンヌは怒った。

 国王が困るのは本人に何とかしてもらうにしても、最終的に国民にしわ寄せが行くようなのは困る。

 しかし、ラインハルトは引かなかった。


「そもそも、7歳の子供や女性に外交を任せるのが可笑しいのです。人材がいないというなら、育てればいい。今回のアルステリアと違って、他国は大使の派遣を求めてきていない。これからでも人材を育てれば、必要な時に間に合いますよ」


 尤もなことを言う。


(正論過ぎて、反論出来ない)


 マリアンヌは心の中で愚痴った。


「でも、わたし達がアルステリアを訪問したことはそのうち、他国にも伝わるでしょう。そうなると、アルステリアのように国交を深めたいという申し出が出てこないとは限りません。ラインハルト様が思っているより早く、必要な時は来るかもしれません」


 言い返した。人材を育てる時間があるとは思えない。

 組み敷かれた状態で、マリアンヌは真っ直ぐにラインハルトを見上げた。


「それでも、それが私の愛する妻と子を他国に送る理由にはなりません。私がどれほど、君と子供達を心配していたかわかりますか?」


 ラインハルトは情に訴える。

 そう言われると、マリアンヌも弱かった。

 マリアンヌは危険な目には合っていない。だが、裏で様々な思惑が動いていたことをマリアンヌはほとんど知らなかった。危険な目に合わずにすんだのはたまたまだ。

 そして、マリアンヌたちがアルステリアでどう過ごしているのかなんて、アルス王国の王宮にいるラインハルトは知りようがない。

 この世界には電話もメールもなかった。


(連絡の取りようがないから、自分の安否を知らせるのは無理なのよね)


 自分が逆の立場だったら、不安でいてもたってもいられないだろう。


「でも、だからって子供を作るというのは極論過ぎません?」


 マリアンヌは苦笑した。


「私との子供はこれ以上いらないと?」


 ラインハルトは拗ねた顔をする。


「その聞き方は意地悪です」


 マリアンヌは困った。


「私はあと3人くらい子供が欲しいと思っています」


 ラインハルトは真顔で言う。


「え? 6人も?」


 マリアンヌは驚いた。

 ラインハルトが子供のたくさんいる家庭に憧れがあるのはなんとなく気づいていた。同母の兄弟がいないことを寂しく思いながら育ったらしい。

 だから双子が生まれて跡継ぎ問題を心配しなくてよくなってからも、子供を作った。マリアンヌ的には、3人いたら十分だろうと思う。しかし、ラインハルトはもっと多くを望んでいたようだ。


「駄目ですか?」


 真顔で問われる。


「駄目ではないけど……」


 マリアンヌは言葉を濁す。


(さすがに多くない?)


 自分が大家族の母になる覚悟はマリアンヌにはなかった。






無駄に話し合い始めて、長くなりました。続きます。次こそ、いちやいちゃを。


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