出迎え
ようやく対面です。
メアリは離宮の扉を開けた。
「ただいま」
そう言って、マリアンヌは屋敷に入る。
玄関ホールには、ラインハルトとルイスがいた。そして、ラインハルトの後ろに隠れるように、末っ子がこちらを覗き込んでいる。
「ただいま」
マリアンヌは末っ子に声をかけた。
久しぶりの再会に、駆け寄ってくる息子の姿を想像する。
しかし末っ子はマリアンヌが声をかけた瞬間、ラインハルトの足の後ろに隠れてしまった。
「どうしたの?」
マリアンヌは戸惑う。顔を覗き込もうとした。すると、さらに逃げられる。
「忘れられたのかしら?」
マリアンヌはショックを受けた。
大人にとってはたった10日だが、子供にとっては短くない時間だ。忘れられることはありえなくない。
予想外のことに、戸惑った。
「いや、拗ねているんじゃないかな」
ラインハルトが囁く。末っ子を見た。
末っ子はラインハルトを真っ直ぐに見上げている。
見つめ合う2人は、仲が良さげだ。
(仲良くなっている……)
マリアンヌは驚く。
「置いて行かれてずっと、怒っていたよ」
ラインハルトはマリアンヌに説明した。
「置いて行ったから、怒っているの?」
マリアンヌは尋ねる。
「……」
末っ子は黙って、恨めしげにマリアンヌを見た。
(好きで置いていったわけじゃないのに、辛い)
マリアンヌは心の中でぼやく。
だが、そんな言い訳に何の意味もないことをマリアンヌは知っていた。
とりあえずしゃがみこみ、子供と目線を合わせる。
「ただいま。機嫌を直して、母様を抱きしめてくれない?」
手を広げて、頼んだ。
真っ直ぐマリアンヌを見つめていたその目はみるみる潤む。大粒の涙がその頬を伝った。
「母様なんて、嫌い」
文句を言いつつ、マリアンヌに抱きつく。
「ごめんね」
マリアンヌはぎゅっとわが子を抱きしめた。ポンポンと優しく背中を擦る。
そんな2人に、ラインハルトもアドリアンたちもなんだが胸が熱くなった。
ラインハルトはマリアンヌの後ろにいるアドリアンとオーレリアンを見る。
「お帰り、アドリアン。オーレリアン」
息子達に声をかけた。
「ただいま、父様」
アドリアンが返事をする。
「お帰り」
ラインハルトはもう一度そう言いながら、アドリアンを抱きしめた。
アドリアンはちょっと驚く。
「オーレリアン」
もう一人の息子の名前を呼んで、オーレリアンも抱きしめた。
ぎゅっとハグされて、オーレリアンは戸惑う顔をする。
今まで、ラインハルトにこんな風に抱きしめられたことは記憶になかった。
ラインハルトにはいつもどこか遠慮があった。
王族として育ったラインハルトはあまりスキンシップに慣れていない。誰かに抱きしめられた記憶など、ほとんどなかった。
自分が経験していないことをあまり上手く出来ないのは普通だろう。
アドリアンやオーレリアンは、父とはそういう人なのだと思っていた。
だが、留守の間に父に何か変化があったらしい。力いっぱい抱きしめることが出来るようになっていた。
(何があったのだろう?)
2人は不思議に思う。互いに顔を見合わせた。
だがラインハルトの関心はすでにマリアンヌに移っている。
「マリアンヌ」
末っ子が独り占めしているマリアンヌに呼びかけた。
「はい」
マリアンヌはラインハルトを見る。
「私もそろそろ君とハグしたいのだが、いいかな?」
ラインハルトは問いかけた。
マリアンヌはちらりと末っ子を見る。マリアンヌの胸に顔を埋めて、離れなかった。
「今はちょっと無理みたいです。後でたくさんハグしますから、もう少し我慢してください」
マリアンヌは頼む。
「……」
ラインハルトは不満な顔をした。
だが、ここで駄々を捏ねるのが大人気ない自覚はある。
「ラインハルト様」
諌めるようにルイスの声が響いた。
「わかっている」
ラインハルトは憮然とする。
「では、後で」
不承不承という顔で、納得した。
親も子も拗ねています。




