可能性
セバス、元気です。←違う^^;
マリアンヌは父の書斎を借りることにした。公爵たちと話をするのにちょうどいい。
テーブルにお茶の用意をしてくれるよう、セバスに頼んだ。
「何人前をご用意しますか?」
セバスは問う。
アルフレットについてきたセバスだが、今はほとんどランスロー家の執事同然の仕事をしていた。貴族の客が来る時はセバスが接客するのが暗黙の了解になっている。
「公爵にハワード。わたしと子供達で5人になるわね」
マリアンヌは答えた。
「お子様達もご一緒されるのですか?」
セバスは渋い顔をする。
「駄目かしら?」
マリアンヌは首を傾げた。
「お客様はレッジャーノ公爵ですよね? 公爵様は生真面目な方ですので、大事な話をなさるならお子様方がご一緒ではない方がよろしいかと思われます」
セバスは進言する。
「……」
マリアンヌは少し考え込んだ。
一度に伝える方が楽だが、無理して一度に伝える必要もない。
「そうね」
セバスの進言を受け入れることにした。
ルーズベルトとハワードはお茶の時間に間に合うようにやって来た。
セバスに書斎に通される。
書斎ではマリアンヌが一人で待っていた。子供達の姿はない。
そのことにルーズベルトは直ぐに気づいた。何も言わないが、満足そうな顔をする。
セバスの進言が正しかったことをマリアンヌは実感した。
「疲れているところを呼び出してごめんなさい」
マリアンヌは謝る。座るよう、二人を促した。
ルーズベルトとハワードはマリアンヌと向かい合うように座る。
お茶を淹れてセバスが立ち去るまで、マリアンヌは待った。
「さて、何から話しましょうか?」
カップを手に持ち、問いかける。ルーズベルトを見た。
「まず、何故ウリエル様達と飲むことになったのか、それから説明してください」
責めるような口調で問われ、マリアンヌは苦笑した。
「気になることがあったので、話をする機会を作っていただきました」
答える。
「気になることとは?」
ルーズベルトは眉をしかめた。嫌な予感がする。
「訪問先の選定に作為的なものを感じたのです」
マリアンヌは説明した。案内される場所がアルス王国と似すぎていること違和感を覚えたことを話す。
「それで話をしたくなったわけですか」
ルーズベルトは呆れた顔をした。
「何故、一言相談して下さらなかったんですか?」
問い詰める。
「相談したら、反対したでしょう?」
マリアンヌは聞き返した。
「もちろん」
当たり前な顔でルーズベルトは頷く。
「予定にないことをされるのは困ります」
渋い顔でマリアンヌを見た。
「だから相談しませんでした。そして、話をして良かったと思っています。あのままではわからないことだらけでしたから」
マリアンヌは真っ直ぐ、ルーズベルトの視線を受け止める。ぴんと背筋を伸ばした。
ルーズベルトはそれを見て、ますます渋い顔をする。
2人の間で、空気がぴんと張り詰めた。
それをハワードの声が打ち消す。
「私たちの知らない何があの国にあるのですか?」
尋ねた。じっとマリアンヌを見つめる。ずっと気になっていたのが態度からわかった。
「アルステリアは王族と議会が同等の権力を持っています。権力のトップが二つあるわけですから、派閥も二つあるのは当然です。でもそれはわたし達が思っているよりずっと根深い問題のようです。アルステリアという国が誕生するところまで話は遡ります」
マリアンヌはガブリエルから聞いた話をざっくりと省略しながら話した。
「どんな理由があったにしろ、二つの国がくっついて一つの国になったのですから、それぞれの国に元々住んでいる人たちの間に溝があるのは当たり前のことでしょう。議会派の大部分が旧国民で、王族派はアルス王国からきた貴族というのも納得できます」
そう続ける。
それはハワードにも初耳の話であった。
「私が受け継いだ資料にはそういう話は載っていないのですが……」
困惑を顔に浮かべる。
「自分の国のマイナス面を進んで話すことはないでしょうから、知る機会がないのは当然でしょうね」
マリアンヌは苦く笑った。
「では、マリアンヌ様にも本当のことを言ったとは限らないのではないですか?」
ルーズベルトは疑問を口にする。
「そうね」
マリアンヌは頷いた。
「本当だといえ裏づけは何もありません。わたしが疑いを持って問い詰めることまで読んで手を打っていたとしたら、お手上げです。だから、わたしが聞いた話を信じるのも疑うのも自由です。可能性の一つという程度に考えてもらっていいですよ」
マリアンヌはルーズベルトとハワードを見る。
「そうですね」
ルーズベルトはただ頷いた。
裏つげがない情報をまるっと信じるのも危険です。




