荷物
いろんな荷物を抱えています。
アルステリア側のいざこざなど関係なく、マリアンヌたちは国境まで無事に到着した。
恙無く終えた滞在の裏で、いろんな思惑が蠢いていたことなどマリアンヌは知らない。
何かはあるだろうと思っていたが、マリアンヌが予想しているよりずっと厳しい状況であったことには気づいていなかった。
アルステリア側の護衛も、マリアンヌたちの護衛も、国境まで来てほっとする。
アルス王国は目の前だ。
「国境までの護衛、ありがとうございました。それでは、失礼します」
マリアンヌはにこやかにウリエルに挨拶した。そそくさと帰ろうとする。
「ゆっくりお話する機会がなくて残念でした。またいらしてください」
ウリエルはそう言った。
それにマリアンヌはただ微笑む。
返事はしなかった。
正直に言えば、アルステリアには個人的には興味がある。この世界の議会制というものが気になるし、アルス王国と大きく違うところも本当はいろいろあるだろう。それら見てみたい気持ちはあった。
しかしそれ以上に、関わると厄介な気がする。
(ウリエル様もガブリエル様も嫌いではないけどね)
心の中でそう呟いた。
ウリエルは最初から返事を期待していなかったのか、マリアンヌが応えなくても何も言わない。
黙って見送ってくれた。
マリアンヌは子供達を先に歩かせ、国境を越える。アルス王国に戻った。
全員が国境を越えると、門が閉められる。
マリアンヌたちは振り返り、それを見ていた。
向こう側ではウリエルたちもじっとそれを見ている。
たった一枚の扉が隔てるものはとても大きいとマリアンヌは感じた。
前世では島国で生まれ育ったので、陸続きの国境を越える感覚がマリアンヌにはない。
それは何とも不思議な気分だ。
向こうとこちらが別の国だなんて、わかっていても実感はない。
だが、やっと帰ってきたという安堵はあった。
「何をしたわけでもないのに、疲れたわね」
マリアンヌはぼやく。
「でも、楽しかったよ」
暢気にそんなことを言ったのはアドリアンだ。職業体験みたいなことをいろいろとさせてもらって楽しかったらしい。
それはオーレリアンも一緒だろう。
2人とも無邪気に楽しんでいた。
アルステリアにいる間、マリアンヌはオーレリアンを普通の子供として扱う。大人扱いは一切しなかった。常にどこかで誰かに見られているかもしれないと、人の目を意識する。
オーレリアンの秘密だけは悟られることがあってはならなかった。いろいろと話したいことがマリアンヌにはあったが、それは全て飲み込む。
(一人で抱えるのって、けっこう辛い)
そんなことを思っていた。
いつもはオーレリアンに打ち明けて、相談することもある。見た目は7歳でも中身は賢王だ。いろいろ知っているし、役に立つ意見もくれる。
無意識に自分がオーレリアンに頼っていたことに気づいて、マリアンヌは少しばかり反省もしていた。
「とりあえず一旦、出発までに滞在していた場所に戻りましょう。今日は一日休んで、王都には明日出発することにします。レッジャーノ公爵とハワードは一休みしたら、お茶の時間までにランスロー家にいらしてください。話さなければならないことをお話しましょう」
マリアンヌは勝手にこの後の予定を決める。
「……」
ルーズベルトは渋い顔をした。
「何か不都合でも?」
マリアンヌは尋ねる。
「いえ……」
ルーズベルトは首を横に振った。
「お茶の時間だと早すぎるなら、夕食の時間でも構わないですよ」
マリアンヌの問いかけに、ルーズベルトはハワードを見る。時間的に可能なのかどうか、判断できなかった。
「いえ、お茶の時間にお邪魔します」
ハワードが答える。
夕食の時に伺うより、早い時間の方が後は楽だろう。明日からは馬車の旅が始まるので、体力は温存しておきたかった。
報告のため、ハワードは一緒に王都に向かうことになっている。
「では、お茶の時に」
マリアンヌはにこやかに微笑んだ。
「シエル。帰りましょう」
弟に声をかける。
マリアンヌたちはランスローに向かった。
滞在中は子供達とは故意に距離をとっていました。




