出発
帰国します。
朝食後、一行は直ぐに王宮を出発する予定になっていた。
ルーズベルトは朝食を取った後、集合場所である広間に向かう。
そこではすでにアルステリア側の人々が待っていた。ウリエルやガブリエルの姿も見える。
(不味い)
内心、焦った。
集合時間より早くやってきたが、皇太子達を待たせてしまったらしい。
「遅くなりまして、すいません」
ルーズベルトはウリエルたちに声をかけた。
「お待たせしました」
謝る。
「いえ。わたし達はホストなので早く来ただけです。お客様を待たせるわけには行きませんからね。まだ集合時間前なので、遅くなんてないですよ」
ガブリエルはルーズベルトを気遣った。
ルーズベルトは恐縮する。
ガブリエルはいかにも王族の姫という感じのする華やかな美人だ。
黙って立っているだけで威厳がある。
比べても意味がないとわかっていても、ルーズベルトはマリアンヌと比較してしまう。
皇太子妃であるマリアンヌは将来、王妃になるだろう。自国の王妃が彼女で大丈夫なのか、ルーズベルトは不安に思っていた。
男爵令嬢の出だけあって、王族と比べると見劣りする気がする。
「ところで、マリアンヌ様はいついらっしゃるのですか?」
ガブリエルに問われた。
ルーズベルトはドキッとする。今朝のあの様子だと、時間ギリギリになるに違いない。だが、二日酔いで遅くなりますなんて言えるはずがなかった。
どう誤魔化そうか考えていると、ガブリエルの視線が動く。入口の方を見てふっと笑った。
すっとルーズベルトの側を離れてそちらに向かう。
「おはようございます。マリアンヌ様」
マリアンヌを迎えに行った。
「おはようございます」
マリアンヌは返事を返す。ルーズベルトが思っていたより早く来た。そして、意外としゃんとしている。
(今朝はあんなに辛そうだったのに)
ルーズベルトは少しばかり見直した。皇太子妃としての威厳を損なわない態度にほっとする。
ガブリエルはそんなマリアンヌと親しげに話をしていた。昨日より、2人の関係はぐっと深まっているのがわかる。
一緒に飲んだことが、功を奏したようだ。
「おはようございます」
ウリエルもマリアンヌに寄っていく。
こちらも親しげな様子を見せた。
(昨夜、いったい何があったんだ?)
ルーズベルトは困惑する。だが、この場で聞けるわけもなかった。疑問はぐっと飲み込む。
マリアンヌはよそ行きの顔で、王子と王女の相手をしていた。
地味で特筆すべきところがない顔だが、不美人ではない。
(凜としているといえなくもない)
ルーズベルトはそんなことを思う。そこまで見劣りするわけでもないことにほっとした。
王子や王女とは対等にわたりあっている。
親しみを持たれているようだ。
「今度いらっしゃる時はもっとゆっくりしていってくださいね。マリアンヌ様の行きたい場所にご案内しますので」
ガブリエルが約束する。
「もっといろいろ話してみたかったのに、お帰りになるなんて残念です」
社交辞令だけではないようだ。
「そうですね」
マリアンヌはさらりと流す。余計な口約束はしなかった。
(地味で見栄えのいい皇太子妃ではないが、頭の回転は悪くない)
軽率な約束をしないマリアンヌをルーズベルトは評価した。上手に誘いを躱している。
実際問題として、マリアンヌが再びアルステリアを訪れる可能性は高くない。来られたとして、ウリエルの就任式だろう。
当然、のんびり滞在なんて出来るわけがない。
マリアンヌはそれを理解していた。
マリアンヌたちが話をしている間に、ぞくぞくとアルス王国の人間がやって来る。
出発時間前にみんなが揃った。
マリアンヌは見回し、それを確認する。
「時間にはまだ少し早いですが、全員揃ったので出発しようと思います」
ウリエルとガブリエルに言った。
「では、国境までご一緒しましょう」
ウリエルが応える。
送るつもりでいた。
「何かありましたら、大変なので」
そう続ける。
マリアンヌは断り難かった。
「そうですか。よろしくお願いします」
護衛を受け入れる。
アルス王国一行はウリエル率いる護衛騎士に囲まれて王宮を出発した。
大公家の養女になっても、周りの認識は男爵令嬢のままです。




