未確認生命体
理解出来ない存在はいるのです。
ルーズベルトは爽やかに目覚めた。
側近に起こされる前に起きる。アルステリアでの滞在を恙無く終えて、気分が良かった。
何の問題も起こらず帰れることにほっとしている。
生真面目なルーズベルトはアルステリアに滞在中、ずっと気を揉んでいた。
マリアンヌの行動は予測が出来ない。
ウリエルとピリついた時には心臓が止まるかと思った。
だが、何もなくて安堵する。
今日はアルステリアを出て帰るだけだ。国に戻れば、ルーズベルトの肩の荷も下りる。
早く国に帰りたいと、ルーズベルトは心から思っていた。
そんなルーズベルトのところに、朝一番にハワードがやってくる。
「おはようございます。朝早くからすいません。一つ、お耳に入れておかなければいけないことがありまして」
ハワードは何とも気まずそうな顔をしていた。
ルーズベルトは嫌な予感を覚える。
「マリアンヌ様か?」
問いかけた。
問題を起すなら、皇太子妃だろう。
地味で何の変哲もない女性なのに、どうにも得体の知れないところがあった。
ルーズベルトは本能的に警戒している。
「はい」
ハワードは苦笑した。
「何をしたのだ?」
ルーズベルトはため息混じりに聞く。知りたくないが、知らないわけにはいかない。ルーズベルトは実質的な責任者だ。
「実は昨夜……」
マリアンヌがウリエルたちと酒を飲んだことをハワードは話す。
「……」
ルーズベルトは顔をしかめた。
「何故、そんなことになるのだ? 私は何も聞いていない」
怒る。誰に対して怒っているのか、自分でもよくわからないが腹が立った。
「マリアンヌ様からの提案だったようです」
ハワードは教える。
「……」
ルーズベルトはますます、顔をしかめた。
空気がピリつく。
ハワードは身を竦めた。八つ当たりされてはかなわない。
「マリアンヌ様は今、何処に?」
ルーズベルトはハワードをじろりと睨んだ。
「おそらく、お部屋かと」
ハワードは答えた。背筋を冷や汗が伝う。睨むルーズベルトはかなり迫力があった。
「そうか」
ルーズベルトは頷く。
「では、行こう」
そう言った。
マリアンヌの部屋に乗り込もうとする。
「私もですか?」
ハワードは聞いた。出来れば、遠慮したい。どう考えても面倒なことになりそうだ。
「アルステリアはそなたの担当だろう?」
ルーズベルトは冷たい目をハワードに向ける。
逃げられると思うなと、その目は語っていた。
「はい」
ハワードは頷く。覚悟を決めた。
訪ねて行くと、マリアンヌはぐったりしていた。
王子達が、そんな母の側に心配そうに寄り添っている。
「いかがされましたか?」
ルーズベルトは尋ねた。毒でも盛られたのかと、危惧する。
国際問題という言葉が脳裏を過ぎった。
「大丈夫です。ちょっと飲みすぎただけです」
マリアンヌは答える。
二日酔いのようだ。
(人騒がせな)
内心、ルーズベルトは毒づく。
自分に何かあったら、周りの人間が迷惑することを自覚して欲しいと思った。
しかし、毒とかではなくて安堵する。
「昨夜、ウリエル様達とお酒を飲まれたそうですね」
ルーズベルトは尋ねた。
「ええ。そうです」
マリアンヌは認める。隠すつもりはそもそもなかった。ルーズベルトの後ろで小さくなっているハワードに微笑む。責めるつもりがないことをアピールした。
「そんな予定、私は聞いていないのですが」
ルーズベルトは恨めしげにマリアンヌを見る。
「突発的に決まったのです。言えば反対すると思ったので、あえて言いませんでした」
マリアンヌは正直に打ち明けた。
「止められるのがわかっていて、強行したのですね?」
ルーズベルトは静かな声で尋ねる。その声には責める気持ちが込められていた。そのことに、二日酔いの回らない頭でもマリアンヌは気づく。
「わかっていましたけれど、必要だとわたしは判断しました」
きっぱりと言い切った。凛とした態度で引かない。
「話の内容については、国に戻ったらお話します。今ここで、話す内容ではないでしょう?」
マリアンヌは問いかけた。
基本的に部屋での会話は盗聴されていることを前提にマリアンヌは話をしている。
考え過ぎかもしれないが、慎重になることが悪いこととは思えなかった。
「……わかりました」
ルーズベルトは納得する。
「では、この件に関しては国に戻ったらじっくりお話しましょう」
そう言った。
「はい」
マリアンヌは返事をする。
「お話はそれだけでしたら、お引き取りください。わたしは出発直前まで、休ませていただきますから」
辛そうな顔をした。
(やはり、得体が知れない)
ルーズベルトはそう思う。マリアンヌは理解し難い存在だった。
厄介だと思われています。




