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決戦の朝

第二部突入です。

完結したわけでも第二部ってあれですが。







 朝早く、わたしは目を覚めた。


(眩しい……)


 差し込んでくる日差しの眩しさに、目を細める。

 天気はとてもいいようだ。

 清々しい朝だが、わたしの気は重い。

 昨夜はあまり眠れなかった。


 シエルに一目惚れを指摘されたわたしはとても混乱する。

 予想もしなかった言葉に、内心では取り乱していた。

 でもそれをシエルやアークの前で見せるのは堪える。

 わたしにもなけなしのプライドはあった。

 一目惚れを弟に指摘されて、パニックを起こすなんて姉としての沽券に関わる。

 わたしはシエルの前では頼りになるお姉さんでありたかった。

 一人になってから、葛藤する。


 シエルの言葉に納得する気持ちが半分。

 それを否定したい気持ちが半分。


 どっちつかずのわたしの心は現在、かなり情緒不安定に陥っている。


(だって、ありえなくない? 相手は19歳よ。かろうじてシエルより上なだけなのよ。前世なら大学生か専門学校生。高校生じゃなくて良かった、犯罪者にならずにすんだな~って28歳のOLとしては思うわけですよ)


 心の声も情緒が不安定で意味が不明だ。

 軽く錯乱しているのが自分でもわかる。

 前世でもし28歳OLに19歳の男の子に一目惚れしたと相談されたら、わたしは絶対に止めるだろう。

 年上のお姉さんの方が苦労するのはわかりきっていた。


(正直、王子とどうこうなるつもりはなかったから、年の差とか諸々、気にしていなかったのよね)


 わたしはため息をつく。

 王子の妃になるつもりで参加を決めたのなら、わたしも多少は悩んだり、迷ったりしたかもしれない。

 9歳も年上なのはこの世界ではなかなかの年齢差だ。

 男女が逆の組み合わせは聞いた事があっても、女性が年上のパターンはない。

 自分より年上の女を結婚相手に選ぶ男はほぼいないということだろう。

 結婚の申し込みが出来るのは男性だけで、女性は申し込まれるのを待つのがこの世界のお約束だ。

 明確なルールがあるわけではないが、慣習としてそうなっている。

 女性の方から求婚するのはありえなかった。

 それだけ、女性の社会的地位は低いということかもしれない。

 自立の手段がないのだから、それも納得するしかない。


 前世の記憶があるわたしには違和感がありまくる。

 女性から告白したり、プロポーズしてはいけないなんてナンセンスだ。

 だがそれがこの世界の常識なのはわかっている。

 その常識を覆すようなことは主役の人の仕事で、その他大勢のわたしの役目ではない。

 そう考えると、自分で結婚相手を選んで押しかけてきた母の行動はさすがの主役様という感じだ。

 実家と縁を切ることになったのは、格の違いよりこっちの方が大きな問題だったのかもしれない。

 母はすごい人だったのだと、改めて思った。

 だがわたしに母のような大胆不敵さはない。

 一目惚れしたということは、わたしは王子に好かれたいと思っているのだろう。

 そのことに気づいた途端、急にいろいろ怖くなった。

 だがもうすでにいろんなことをやらかした後なので、今さら取り繕うことは出来ない。

 そもそもこんなわたしでいいらしいので、態度を変える必要はなさそうだ。


(でもでも……)


 頭の中でまたいろんなことがぐるぐる回り始める。

 昨夜からずっと、そんなことの繰り返しだ。

 否定して、肯定して、また否定して。

 心が全然、落ち着かない。


(知恵熱が出そう)


 考えるのに疲れたので、全てぽいっと捨ててしまいたくなった。

 散々考えて、一人でぐるぐる回って、もういいやって諦めて放り出すのは前世での悪い癖だ。

 今生はそれを直したいと思っている。


 ベッドの中でうだうだやっていたら、時間だと起こされた。

 朝食を食べて、馬車に乗る。

 城に向かった。

 アルフレットの代わりにアークが同行してくれる。

 今日は参加者+従者が二人一組になって取り組むゲームのようだ。

 詳しい説明はなかったが、昨日、勝ち残った本戦出場者にはそのことが伝えられる。

 誰を従者に選ぶかは自由だが、必ず一名だけだと念を押された。

 わたしにはそもそもアークを選ぶ以外の選択肢はなかったので、迷うこともない。

 アークと二人きりになるのは王都に来てから初めてだ。

 王子の結婚が内定し、本気で優勝を目指すことになってしまった身としては、いろいろ心苦しい。


「こんな形でアークに協力してもらうのは、正直、申し訳ない」


 わたしは言うか言わないか迷っていた言葉を口にした。

 何も言わなくても、アークはきっと協力してくれるし、わたしを助けてくれるだろう。

 だがそれはあまりにずるい気がした。

 せめて、謝らせてほしい。

 それがわたしの自己満足にすぎないことは痛いほどわかっているけれど。


「いろいろ、ごめんなさい」


 余計なことは言わずに、頭だけ下げた。

 どんな言い訳の言葉も、虚しいだけだし、アークを傷つけるだけだろう。

 謝罪の言葉は短い方が相手には伝わるはずだ。


「マリー様」


 アークは優しい声でわたしを呼ぶ。


「気にしなくていいんですよ」


 微笑んだ。


「無理なのは最初からわかっていたんです。ただ、言わずに諦めるのは嫌だった。何も言わなかったら、可能性はゼロになる。でも口に出したら可能性は1になるかもしれないでしょう? 言わなければ相手には永遠に伝わらないから、オレは言葉にしたんです。マリー様は笑わず、真剣にそれを受け止めてくれた。貴族相手に平民のオレが求婚するなんてありえないことなのに。オレはそれだけで満足です」


 アークの言葉が胸に痛い。

 前世の記憶を持つわたしには、アークのプロポーズは全くありえないことではなかった。

 ただそれだけのことなのだが、説明するわけにはいかないし、理解してももらえないだろう。


(アークが思っているような人ではわたしはないのよ)


 言い訳は心の中だけでした。






 城に着くとわたしたちは王の間に案内された。

 玉座には王が座っていて、参加者であるわたしたちを見下ろしている。


(この人が王様なのか)


 王子たちは予選の三日間の間にちょくちょく見学に来ていたので姿を見かけたが、国王を見たのは初めてだ。

 美形の王子たちの父親なのでダンディーな人を想像していたが、どちらかというと穏やかな人の良さそうなおじさんに見える。


(好々爺ってこういう人を言うんだったかな?)


 そんなことをぼんやりと考える。

 最終的に残ったのは8人だったようで、同行者を含めて16人が王の前に2列に分かれて並んでいた。

 前列には参加者である女性たちが。

 後列にはその従者が並んでいる。

 従者は男性だけではなかった。

 女性も何人かいる。

 わたしは勝手に障害物競走とかアスレチックみたいな体力勝負のレースを想像していたが、違うのかもしれない。

 ちょっと予想が外れた気分になった。


 玉座とわたしたちの間にはルイスがいた。

 本戦の内容を説明する前に、順位に対する説明がある。

 2位、3位は欠番になり、1位の次の人は4位になることが発表された。

 ざわつくと思ったが、意外にみんな静かだ。

 騒ぐ人は誰もいない。

 それを不思議に思ったが、王の前なので取り繕っているのだと途中で気づく。

 それを見越してルイスはわざと王のいるこの場で順位について説明したのだろう。


(さすが、ルイス。腹黒い)


 心の中で賞賛を送ると、ルイスがちらりとこちらを見た。

 まるで心の声が聞こえたような反応に、人の心が読めます的なチートな能力を持っているのではないかと疑ってしまう。

 ルイスがこちらを見たのは一瞬で、何ごともなかったように 賞金や権利についての説明に移った。

 第三王子の妃になる権利が発生するのは1位から3位までらしい。

 今回は2位と3位が欠番なので、1位の人間しか妃にはなれないことになる。


(欠番を2位から入れていくのって、賞金より権利の方の関係だったのか)


 わたしは今さら、納得した。

 最初に読んだ詳細の紙にはたぶんその辺のことははっきり書いてはいなかっただろう。

 わざと含みを持たせる書き方がしてあった。

 後から、都合よく変更できるように。

 最終的にこの場で確認するから曖昧でも困ることはない。

 あんな小さな字の羅列を隅から隅まで読む人はそもそも少ないのかもしれない。

 4位以下については、第一王子の妃や第二王子の妃になれる可能性があるが、それは王子が気に入った場合のみだ。

 女性の方から権利として、妃にしてくれとは言えない。

 1位から3位までは女性の方から権利として結婚を迫ることが出来るので、同じように見えてかなり違った。

 というか、1位から3位までの権利がこの国としてはありえないほど画期的なのだ。

 女性の方からプロポーズが出来るのだから。


(これがバレンタインみたいに女性から告白やプロポーズしていいですよという日として定着したら、すごくいいと思う)


 わたしは密かにそう願った。

 女性たちの人生の幅がぐっと広がる気がする。

 わたしは別に女性に男性と同等の権利をと声高に叫ぶタイプではない。

 女性と男性は違うところがあるのが当然だし、違うからこそ互いを尊重して共存する道を探せるのだと思っている。

 だが、一年に一度くらい女性が自由に恋を叶えられる日があってもいいはずだ。

 そのくらいの権利は女性が主張してもいいだろう。


 そんなことを考えながら、わたしは横に並ぶ参加者たちの顔を眺める。

 なかなか美人揃いだ。

 花壇を荒らそうとしていた子達はいないようだ。


(そうよね。あんなことしたら、罰が当たるわよね)


 心の中で呟く。

 わたしは良いことをすれば運が集まり、悪いことをすれば運が逃げていくと考えていた。

 花壇を荒らした子たちが当たりを引けるわけがない。

 神様はちゃんと見ていてくれたようだ。


 そんな暢気なことを考えていたが、一番端にいた参加者の顔を見て、声を上げてしまいそうなほど驚く。


(え? なんでいるの?)


 しれっとフローレンスがいた。

 ラインハルトが女装して、参加者の列に並んでいる。


(いやいや。さすがに8人の中に混じっては駄目でしょう。目立ちすぎるでしょう)


 心の中で突っ込む。

 実は昨日から、わたしはちょっと悩んでいた。

 次にラインハルトに会う時、どんな顔をすればいいのかわからない。

 自分が一目惚れしたなんて、気づく前は平気だった。

 だが、好きなのかもしれないと思うと、ラインハルトに会うのがどうにも恥ずかしい。

 顔なんて見られないと乙女なことを考えていたのに、フローレンスになっているラインハルトを見たら、そんな気持ちは吹き飛んだ。

 悩んだのがばかばかしくなる。


(わたし、本当にこの人に一目惚れなんてしたのかしら?)


 自分の気持ちがよくわからなくなった。





一目惚れした自分に戸惑います。

28歳が19歳に一目惚れしたらパニックですよ。><

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