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転生者

さくさくUPしていきます。




 人間は死んだら、転生するらしい。

 洩れなく生まれ変わるのだから、誰もがみんな転生者だ。

 そして、そんなたくさんの転生者がみんなチートな能力をもらえるわけがない。

 ごくごく一部の人とは違い、ほとんどの人はその他大勢の中の一人だ。

 特別な能力など与えられず、ただ生まれ変わる。

 わたしもそんなその他大勢の一人だ。


 ごく普通に生きてオタクな人生を満喫し、60歳くらいで人生十分だなと思っていたら、それくらいの年に病気で人生を終える。

 予定通りと言えば予定通りで、病気で余命宣告も受けたので、趣味の諸々を処分できる時間も十分にあった。

 だだ捨てるのは勿体無いので、欲しい人の手元に行き渡るように売ってしまう。

 死ぬ前にすっきりと処分を終え、心置きなく死を迎えた。


 その後、女神様的な何かに出会って話をしたり、特別な能力を与えられるなんてこともなく、普通に生まれ変わる。


 貴族とは名ばかりの、辺境地を治める男爵家に長女として転生した。

 ただし、何故か前世の記憶を持っている。

 死んだはずなのに目が覚めて、自分が赤ん坊になっていると気づいた時にはそれは驚いた。

 オタクなわたしは異世界転生ものなんてくさるほど読んでいる。

 自分がそんなまんがや小説の中のような体験をするのかと、ちょっとドキドキした。

 だが、直ぐにそれが誤解であることに気づく。

 生まれ変わったわたしはごく普通の赤ん坊だった。

 異世界転生お約束の、チートな能力なんて何一つ持っていない。

 その他大勢のわたしは転生してもその他大勢のままだ。


 そもそも、ここが異世界かどうかもよくわからない。

 異世界を示唆するものは何もなかった。

 例えば、人化した獣人がいたり、妖精がいるような気配はない。

 魔法が使えたりもしないようだ。

 ついでに言えば、勇者や魔王がいるような世界にも見えない。


 わたしにはごく普通の世界に見えた。

 ただ、時代はちょっと可笑しい。

 わたしは21世紀を生きていた。

 生まれ変わるとしたら、未来だろう。

 だがここはどう見ても中世ヨーロッパだ。

 異世界転生にはありがちな設定だが、過去に遡っている感じがする。

 ついでに言えば、前世は日本人だったが、今のわたしは日本人ではなかった。

 父は黒髪だが目は青いし、母は金髪に緑の目で完全にフランス人形だ。


(異世界転生ではなく、ただの転生。ただし、時代だけ逆行って感じかな)


 わたしは冷静にそう判断する。

 だが、特に不満はなかった。

 家はそれほど裕福そうではないが、生活に困っている感じはない。

 侍女がいるので、それなりに上流階級なのだろう。

 生まれ変わる先としてはそこそこ良いと思った。

 その他大勢のわたしとしては上出来なほうではないだろうか。




 そしてわたしはすくすくと成長した。

 この世界の生活レベルはまんま中世ヨーロッパだ。

 電気がないので機械というものがない。

 農作業はほぼ手作業だ。

 明かりはランプだし、暖房や調理には薪を使っている。

 テレビもネットもスマホも何もない世界だが、なくても生きることにさして困らないのだと知った。

 わたしの家は王都から遠い国境ぎりぎりの辺境地だが、土地は豊かだ。

 農作物が豊富なので、領民は食べ物には困らない。

 輸送手段が限られているので、せっかくの豊富な作物を販売して現金収入に繋げることがあまりできないのが難点だが、でもだからこそ、人々は穏やかで幸せに暮らせるのかもしれない。

 自給自足の生活が成り立っていた。

 科学の進歩が人を幸せにするとは限らないことを、スローライフな生活の中でわたしはしみじみと実感する。

 しかしもちろん、それはいいことだけではなかった。

 科学が進歩しないということは、医療の進歩もない。

 21世紀のわたしからしたら信じられないような些細なことで、人は簡単に死んでいった。

 前世なら助けられたのにと、何度も思いながら死にゆく人々を見送る。

 自分に医学の知識がないことをとても歯痒く思った。

 前世の記憶を持っていても、何の役にも立たない。

 もっといろいろ、人の役に立つような知識を学んでおけば良かったと後悔した。




 12歳の時、弟を産んで母が亡くなる。

 待望の後継ぎを産んだのに、産後の肥立ちが悪くて半年と経たずに死んでしまった。

 わたしは母に代わって、弟を育てることを決める。

 この世界の貴族の結婚は16歳くらいが適齢期だ。

 弟を育てるということは、適齢期をはるかに越えることになる。

 おそらく、こんな辺境地の男爵令嬢では結婚は無理だろう。

 それがわかっている父は反対したが、わたしは譲らなかった。

 わたしがただの12歳の少女だったら、結婚せずに弟を育てるなんて決断は出来なかっただろう。

 この世界の貴族女性は自立の手段がない。

 結婚し、夫に依存するしか生きていけなかった。

 しかし、わたしには前世の記憶がある。

 自給自足で自分だけなら生きていけるという自信があった。

 農家の出身ではないけれど、前世のわたしも田舎育ちだ。

 全く知識がないわけではない。

 少なくとも、この世界の農家さんよりは一歩くらいなら進んでいるだろう。

 わたしは将来の自給自足の生活まで見据えて、自分の人生設計を立てた。




 それから16年。

 弟は16歳になり、わたしは28歳になった。




引っ張るほどの話でもないので、もう一つ、2時間後にUPします。

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