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息子

前世の記憶を持っていたって……




 わたしの質問に、オーレリアンは「あー」と答えた。

 肯定だとわたしは受け取る。

 オーレリアンは真っ直ぐにわたしを見ていて、それはたまたまという感じではなかった。


「やっぱり」


 わたしは納得する。

 いろいろ腑に落ちた。

 オーレリアンの態度にも納得したが、それだけではない。

 長年のわたしの疑問も解決した。


 その他大勢のわたしだけが前世の記憶を持っているなんて、可笑しいと常々思っている。

 そんなレアな体験、その他大勢のわたしらしくなかった。

 他にも前世の記憶を持つ人が、実はいるのではないかと疑う。

 だが、誰もそんなことは口に出さなかった。

 口にするメリットがないのだから、当然だろう。

 わたしだって、自分が王族になるようなことがなかったら、一生、誰にもそのことは話さなかっただろう。

 他の人もそんな感じなのだろうと、勝手に思った。

 前世の記憶を持っているのは自分だけではないのだと思うと、なんだかほっとする。

 自分だけが特別ではないということはわたしにとっては安心することだ。

 自分がその他大勢であることに安堵を覚える。


「オーレリアンがもう少し大きくなって、いろんな言葉を話せるようになったら、たくさんお話しましょうね」


 わたしは微笑んだ。

 息子が自分と同じで、わたしは嬉しい。

 そんなわたしを少し不思議そうにオーレリアンは見ていた。


「前世の記憶を持っていたとしても、あなたはわたしの息子よ」


 わたしは囁く。

 それは前世の記憶を持ったまま生きてきたわたしの感想だ。

 わたしには前世の両親の記憶がある。

 だから、この世界に転生して戸惑った。

 自分の前世よりずっと年下の若い父や母を自分の親だと認めるまで、少し時間がかかる。

 直ぐには受け入れられなかった。

 だが前世の記憶を持っていたって、今、生きているこの身体は今の両親から貰った新しいものだ。

 わたしが両親の娘であることに変わりはない。

 だから、わたしは自分が人よりちょっと記憶力がいいのだと思うことにした。

 普通の人より、少し多くのものを覚えているだけだと。

 そう考えることが、一番しっくりする。


「わたしたちはね、人よりちょっと記憶力がいいだけなの。前世の記憶を失わずに生まれ変わってしまったけれど、それはたいした問題ではないわ。オーレリアンはわたしの中で芽生えて、育った紛れもないわたしの息子よ。その事実に、間違いは何もない。だからわたしはオーレリアンの母だし、ラインハルトは父親よ。あなたがラインハルトにそっくりなのはその証拠よ」


 わたしはオーレリアンを抱っこして、立ち上がった。

 歩き出す。


「マリアンヌ様?」


 アドリアンの様子を見ていた乳母が驚いた顔でわたしに声をかけた。

 どこに行くのか心配している。


「ちょっと鏡を見たいだけよ」


 わたしは答えた。

 オーレリアンに鏡を見せる。

 オーレリアンは鏡に映る自分の姿をじっと見つめた。


「ほらね。ラインハルトによく似ているでしょう?」


 わたしは囁く。


「前世のあなたが誰であっても、今はわたしとラインハルトの息子よ」


 優しく抱きしめた。


「あー」


 オーレリアンは声を上げる。

 その目は潤んでいた。 

 チュッとその頬にわたしはキスをする。

 オーレリアンはびっくりして固まった。

 わたしはふふっと笑う。


「この程度で驚かないで。キスもハグもこれからもたくさんするわよ。でも本当に嫌なことや必要ないことはしないようにするから、嫌なことは嫌だと教えてね。合図を決めておきましょうか?」


 わたしは提案する。


「あー」


 オーレリアンは返事した。

 同意してくれたらしい。

 わたしは笑った。

 意思の疎通が出来ているのが嬉しい。


「さて、どうしようかしら? 嫌な時はいやいやと首を横に振ったりする?」


 わかりやすい方がいいと思った。


「あー」


 オーレリアンは大きく口を開ける。

 それで問題はないようだ。


「では、そういうことにしましょう」


 わたしは微笑む。


「あー」


 オーレリアンは声と共にこくりと頷いた。





我が子です。

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