散策
話しにくいことは歩きながら 笑
国王をお茶に招いたのは休日だった。
まったりして貰いたくて、わざと休みの日にする。
国王は普段よりラフな格好でやってきた。
いつもよりのんびりしている。
国王としてではなく、ラインハルトの父親として来ていた。
それは周りの空気からも感じる。
いつものぴりぴりした感じがない。
だが、わたしはどきどきしていた。
自分に前世の記憶があることを話さなければならない。
どんな反応が返ってくるのか、まったく想像がつかなかった。
なんだか怖い。
そんなわたしの様子に、目敏い国王は気づいたらしい。
「今日は元気がないですね」
そう言われた。
(さすがポンポコ。よく見ている)
わたしは心の中で苦く笑う。
「そんなことないですよ」
にっこり笑った。
自分でも嘘っぽいなと思う。
国王は何も言わず、ただ笑っていた。
どう考えてもばれている。
わたしの嘘なんて、お見通しなのだろう。
「ちょっとどきどきしているだけです」
わたしは正直に答えた。
国王はその理由を尋ねない。
言えるならとっくに口にしていると思うからだろう。
わたしが言うタイミングを待っているらしい。
「庭でも散策しますか?」
わたしは誘った。
この場より、話しやすい。
国王はふっと笑った。
「いいですよ」
国王は頷く。
席を立った。
わたしもラインハルトにエスコートされて立ち上がる。
三人で庭を歩いた。
気を遣った従者や侍女は少し離れて歩く。
会話が聞こえないくらいの距離を取った。
それを見て、わたしは口を開く。
「一つ、話しておかなければいけないことがあるのです」
わたしは単刀直入に切り出した。
回りくどい言い方はしない。
「なんですか?」
国王は問う。
「すごくわかりにくい話をするのですが、わたし、前世の記憶を持っています」
わたしはさらりと口にした。
「……」
国王は黙り込む。
さすがに予想外だったらしい。
反応に困っているのがわかった。
わたしはちょっと嬉しくなる。
国王のこんな顔を見るのは初めてだ。
何かに勝った気分になるのは何故だろう。
「何の話ですか?」
国王に問われた。
「わたしが人よりちょっと記憶力がいいという話ですね」
わたしは真顔で答える。
「……」
国王は考え込んだ。
「そういう話には聞こえなかったのですが」
首を傾げる。
「何故、いきなり前世のことなんて言い出したのですか?」
不安な顔をした。
「シエルの件は関係ありませんよ」
わたしは聞かれる前に自分から口にする。
国王の心配はそこだと思った。
国王は苦く笑う。
「わたしの行動はわりと前世の記憶にひっぱられているところがあるので、今後、いろいろ気になることがあるかもしれません。その時、国王様が気を揉まなくてもいいように話しておこうと思ったのです」
わたしは説明した。
国王はわたしではなく、隣にいるラインハルトを見る。
「ラインハルトはもちろん、知っているのだね?」
確認した。
「先日、聞きました」
ラインハルトは頷く。
「先日? 最近知ったのかい?」
国王は微妙な顔をした。
「話すタイミング、ありませんから。突然、前世の記憶があると言われても困りますよね?」
わたしは問う。
「それは今でも同じですよ。話す気になったのには、理由があるのではないですか?」
国王は何かを疑う。
しかし、わたしに他意は無かった。
「特にはありません。ただ、黙っているのには無理があると感じたからです。だって、米についてわたしが詳しいことを、みんな不思議に思っているでしょう?」
問いかけると、国王は納得した顔をする。
「みんなうすうす何かあると思いながら、そのことに関してはスルーしてくれています。ですが、いつまでもそれが通用するとは思っていません。辺境地の男爵令嬢だったらこんなこと気にしませんが、ラインハルトの妃としてはいろいろ問題が起こる可能性があると考えました」
黙っていることがラインハルトを不味い立場に追い込むことがあるかもしれない。
わたしはそれを恐れた。
「今後も、国王様が不思議に思う行動をわたしは取ることがあると思います。でも、心配しないでください」
そう告げる。
「そこは、そんな行動は取りませんと約束して欲しいところですね」
国王はため息を吐いた。
「それはたぶん無理です」
わたしは首を横に振る。
「マリアンヌは正直ですね」
国王は困った顔で笑った。
出来ない約束はいたしません




